澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -414-
元社員拘束で暴露された華為のブラックぶり

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 現在、中国では奇妙な数字の羅列「985、996、035、251、404」が注目されている。これは、華為技術有限公司(従業員18万人以上の大手電子機器メーカー。以下、ファーウェイ)を揶揄した数字である。
 第1に、985とは、エリート大学を意味する。1998年5月、当時の江沢民政権は985工程(プロジェクト)を立ち上げた。そして、中国の将来を担う重点校を定めている。
 第2に、996とは、就業時間が午前9時から午後9時までで、週6日働かなければならない。
 第3に、035とは、35歳前後に、退職を余儀なくされる。
 第4に、251とは、元社員が刑務所で拘束された日数を指す。
 第5に、404とは、ネットで元社員の事件を調べようとしても、内容が削除されているため検索できない。
 すでに報道されている通り、昨2018年12月16日、同社の元エンジニア、李洪元(42歳)が警察に拘束された。翌19年1月22日、李はついに逮捕される事態に至った。
 李洪元はファーウェイで13年働いている。離職する際、ファーウェイ幹部と補償金と退職金の交渉を行った(退職金は30万元<約470万円>)。すると、ファーウェイ管理者は「李洪元が会社から補償金と退職金を騙して巻き上げた」として警察に訴えたのである。
 結局、李洪元は警察に251日拘束されている。だが、深圳検察院は証拠不十分で、李を起訴できずに釈放した。
 実は、ファーウェイは、李洪元以外、少なくても20人以上の元社員に罪を被せ、迫害したという事実が暴露された。その中には、2年の有期刑に処された者もいるという。
 たまたま、李は録音テープで当時の状況を記録していた。そのため、起訴を逃れている(その後、李は、今度は国に拘留期間中の賠償金<10万元〔約156万円〕>を求めた。そのせいか、12月9日、李は深圳検察院に恐喝罪等で起訴された)。
 ファーウェイは従業員持株制による民間企業と謳っているが、実態はブラック企業だったのである。ネットユーザーらはこのスキャンダルを知り、反発した。そして、同社は企業イメージを大きく損ねている。
 1987年、ファーウェイは人民解放軍で働いていた任正非(CEO)が設立した。本社は深圳市竜崗区にある。よく知られているように、同社は中国ネット企業大手BATH(百度・アリババ・テンセント・ファーウェイ)の一角をなす。
 ファーウェイは、5G等の先端技術を持ち、米国の牙城を脅かしている。おそらく北京政府の支援を受けている事は間違いないだろう。
 他方、同社は、スマホ等の電子機器端末にスパイウェアーを忍ばせたと疑われている。そのため、米国は同社に対し厳しく対応している。
 さて、米国在住の評論家、陳破空は『ラジオ・フリー・アジア』「(仮訳)孟晩舟のイメージが崩れ、中国共産党の“愛国主義”という絶対ブランドが失効」(2019年12月10日付)の中で、以下のように指摘した。
 昨年12月、カナダ当局は、米国の要請に従い、ファーウェイの副会長兼CFOの孟晩舟を拘束した。
 その際、中国ネットユーザーらは、北京の論調に従い、孟晩舟を「民族英雄」と称え、ファーウェイを「民族ブランド」と奉った。そして、彼らは、孟逮捕は「米帝国主義」による弾圧だと激しく非難している。
 その後まもなく、孟は、勾留場から保釈金を支払い保釈され、監視付きながら、カナダの豪華な自宅へ戻った。
 近頃、孟晩舟はカナダで拘束されてから1年経ち、自らの気持ちを公開した。それは、自分を支えてくれた周囲の人々やネットユーザーに礼を言うためだった。だが、これが思わぬスキャンダルとなる。
 多くのネットユーザーは、孟晩舟が美しくファッショナブルなドレスで自由に街を闊歩し、また、駐カナダ中国大使から慇懃なる慰問を受ける姿を見て、反発したのである。
 かつて孟晩舟は、「ファーウェイのプリンセス」というイメージを持っていたが、それは完全に崩れ去った。
 「李洪元事件」と孟のスキャンダルでファーウェイのイメージは地に堕ちたと言っても過言ではない。