「東京五輪の警戒態勢は」
―ロンドン五輪の警察と軍の協力態勢に学べ―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 東京五輪に向けた警戒態勢はどのようなものになるのか。2012年のロンドン五輪の際は英国空軍戦闘機「タイフーン」が広範囲を見張り、同じく空軍のヘリコプターがオリンピック公園の上空で直接警戒を行った。仮に不審機を見つけた場合、ヘリに同乗した狙撃手が命令を受けて、不審機のパイロットを射撃する。この体制が三重に取られていた上、地上軍の特殊部隊も連動する形になっていた。
 今回の東京ではこれに加えてドローンなどという簡易兵器が出回っているから、敵は有利になる。加えて原発へのテロ攻撃があるとは思いたくないが、用心する必要がある。自衛隊だからといって、不審者をやみくもに退治はできない。他国の軍隊と違って自衛隊は警察官と同じような法体系でしか行動できない。自衛官の武器使用が正当行為とされるのは、相手が「小銃、機関銃、砲、化学兵器、生物兵器などの武器を所持し、または所持していると疑うに足りる」場合に限られる。
 安倍内閣になって新安保法関連10法が成立し、相当に防衛力が強くなったと思い込んでいたが、兵の行動様式は相変わらず、警察官並みなのである。元陸上幕僚長の岩田清文氏の近著、『中国、日本侵攻のリアル』(飛鳥新社)を読んで、ひと安心していた防衛感覚が一挙に冷え込んだ。
 岩田氏は尖閣諸島や宮古、石垣、与那国島に中国軍がひっそりとやって来て、あっという間に占領してしまうシミュレーションを書いている。なぜやられてしまうのか。相手は自衛隊員や警官が持っている武器は、中国側が丸腰だとしたら、使えないことを承知で侵略を考えているからである。かといって彼らが本当に丸腰かといえばそうではないだろう。人口5万人の石垣島も100艘もの漁船が燃料切れだといって接岸されれば、あっという間に占領されるだろう。
 昔、社会党委員長の石橋政嗣氏は「非武装中立論」を書いた。戦後東大の宮沢俊義教授は新憲法の解釈として、「非武装、中立論」を広めた。今でも憲法学者の7、8割は宮沢論の信奉者だというが、さすがに具体的政策として非武装中立に固執する人はいなくなった。では皆が素直に読めるように、憲法に自衛隊を加えようというのが安倍晋三説である。
 石橋が非武装中立論を書いたとき、私は記者会見で聞いたことがある。「どこかの軍隊が無断で入ってきたらどうする」と。石橋の答えは「うまく占領されて無難にかわすことを選択すれば良い」というものだった。日本は米国に占領されたおかげで、脱脂粉乳などという食糧援助も得た。しかしロシアに占領されたらどうなるか。満州に移民していた日本人は皆殺しの目に遭ったところもある。中国ならウィグル人、チベット人のような目に遭うのではないか。上手く占領されるなどということは「民族の理想にはならない」。だからこそウィグル人も香港人も戦い、台湾人も闘う覚悟を秘めている。
(令和元年12月31日付静岡新聞『論壇』より転載)