「『新型コロナウィルス』で露呈された習近平政権の実像」

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会長・政治評論家 屋山太郎

 中国の新型コロナウィルスによる肺炎の感染が拡大している。これは2003年に中国南部で発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)や2013年の中東呼吸器症候群(MERS)と似た症状を示しているが、規模は今回の方が大きく期間も長引くのではないか。
 習主席は疫病といえども世界中の国民活動にブレーキを踏むほどの事件が自国で発生したとなれば、一言あいさつするのが礼儀だろう。それどころかWHO(世界保健機関)のテドロス事務局長は1月23日の緊急委員会で「公衆衛生上の緊急事態宣言」を見送った。自国エチオピアが中国から巨額インフラ投資を受けているためだ。
 今回の疫病騒ぎは3回目である。通常の国なら再発防止策を確立して当然だ。周辺国も当事国に遠慮して「入国禁止」などを打ち出すことはない。にもかかわらず、安倍首相は今回、「入国禁止」を打ち出した。仏の顔も3度までということだ。国際常識では他国が自国民の移動を禁止するなどはとんでもない失礼である。それでも習氏は黙して語らず。その先には断固わが道を行く決意があるのだろう。その独断と専制で中国統治は行われてきた。人心などは枝葉末節だ。
 香港では11月24日に区議会選挙が行われたが、その選挙を控えて中国政府は香港の林鄭月蛾長官に「犯罪容疑者を中国に引き渡す条例を作れ」と命じた。香港は「一国二制度」をどう作るか知恵を絞っている最中である。香港市民はこういう命令を下すようでは、一国二制度の下で民主主義は無くなると直感した。100万人のデモが発生し、11月24日の区議会選挙では452議席のうち民主派が実に388議席と8割以上を占めた。
 この流れと同様、今年1月11日の台湾総選挙も香港の流れを受けた。昨年7月時点では国民党(中国派)の韓国瑜氏が48%、現職の蔡英文氏は44%だったという。しかし香港の騒ぎを見て、民心は一転した。蔡氏が57%、韓氏が39%と大逆転したのである。
 情報を遮断し、民心の流れを見ず、国際世論の趨勢を読めない指導者が永続することはない。しかしここ20年の中国は汚い手を使ってでも儲ける。儲けた金で軍事力を強化する一点張りでやってきた。軍事力によって自国はもちろん、世界をも押さえつける戦略だ。
 軍事に権威があるストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は1月27日、中国の主要な軍需関連企業の販売額に関する新たな推計結果として、中国が米国に次ぎ世界第2の軍需品販売国となったと発表した。
 自由主義国全体を背景に米国は軍事的にも中国の台頭を許さない決意を示すだろう。中国への関税対策はその一歩、中国のボロ儲けをするスジを塞げば、いずれ財政不足に陥るのは必至。下手をすると借金国になりかねない。いま中国はその渕にあると自覚すべきだろう。無理筋の大国を世界は許さないことを示すだろう。
(令和2年2月5日付静岡新聞『論壇』より転載)
 

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