「国会こそ『腐っている』」
―国会は喧嘩を売る場ではない―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 17日の衆院予算委員会で安倍首相が頭を下げて、首相と辻元清美議員の“喧嘩”にケリをつけた。喧嘩についての報道を見ると、どちらが悪いという評価はなかった。この中立的立場はおかしいのではないか。
 私は午後8時からのBS8(フジテレビ)でのまとめを見ていたが、辻元氏は最後にこう述べた。「鯛は頭から腐る。頭を変えるしかない」。辻元氏はモリ・カケとか、過去の不祥事を取り上げた後そう言ったのだろうが、安倍氏の側から聞けば、それは質問ではない。藪から棒に罵詈雑言を浴びたような気がしたろう。岸信介首相以来、ほとんどの国会を拝聴しているが、モリ・カケ以来こんな些事でもめている場面を見たことがない。
 政治の最大課題は言わずと知れた「憲法改正」だろう。どう見てもモリ・カケでもなければ桜でもない。自民党は選挙の度に争点として揚げ、安倍首相になってからは、具体的に「9条には手を付けない」と説明をしている。維新を除く野党は「聞く時間を与えない」国会運営を目指している。与党が国会で取り上げないよう、あらゆる手を尽くし、妨害してきた。今回の辻元氏の“イチャモン“も国会審議の時間を削ろうとしているとしか思えない。野党勢力から見れば「よくやった」ということだろう。読売新聞の世論調査だと内閣支持率が5ポイント減ったという。野党の最高支持率は立憲民主党の7%が5%に下落。「鯛は頭から腐る」という罵声が、気が利いたものなら、与野党逆転するはずだ。
 安倍首相は質問の趣旨が不明なのだから「意味のない質問だ」とヤジを飛ばした。ただ単に安倍首相を貶めるために「お前は腐っている、辞めろ」というのはケンカを売るセリフであって、国会質疑の言動ではなかろう。たとえ安倍氏を嫌いでも「総理大臣」という位には敬意を払うのが社会の伝統だ。
 学生時代、左翼勢力から「権力は悪だ」と散々説教されたが、その度に「お前が権力をとっても悪なんだな」と念押ししたものだ。
 モリ・カケ問題は2国会を通じて取り上げられたが、国会でもちきりになるほど重要な問題なのか。モリ問題は相手の夫人が昭恵夫人の個人メールを全部見せた時点で勝負あり。世話のし過ぎだったということだろう。カケ問題は獣医師の学部新設を50年も変えなかったのは何故か。医学部は全国80大学まで拡大したのに対し、獣医学部の新設が認められたのは1大学。年間定員も930人で固定されていた。いま獣医師は小さな手術一つやっても10万円も取る。犬猫の数が50年前の何倍になっているのか。医師の定員を増やさず、少定員で儲け放題の現状を誰が作ったのか。その突破口となったのが首相の親友の獣医大経営者であっても、正攻法の議論をする限り全く問題ない。むしろ友達甲斐というものだろう。「桜を見る会」は野田政権の時は夫婦そろって参加できるようにしたという。目くじらを立てるような話ではあるまい。
(令和2年2月19日付静岡新聞『論壇』より転載)