「強烈な反撃力を持て!」
―敵基地攻撃能力を可能とする戦略必至―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 秋田県と山口県に配備する予定だった陸上配備型迎撃ミサイルシステム(イージス・アショア)の配備中止によって、日本は敵基地攻撃を可能とする戦略を取らざるを得なくなった。
 日本のこれまでの防衛政策の根幹は「専守防衛」である。あらゆる攻撃に対して迎撃できる武器を揃えなければならない。この20年間にわたって北朝鮮は核実験やミサイル発射を行った。このため日本は2017年にイージス・アショアを導入することになった。 
 秋田県も山口県も迎撃ミサイルを打ち上げれば、ブースターが落下するのは当然だが、その落下物が基地外に落ちるのは許せないという。そこで自衛隊は米国の製造会社に「小型車程度の落下物をコントロールして基地内に落すようにしてくれ」と頼んだ。その勘定書きが10年間の期間と2,000億円だという。「基地外に物体が落ちるのは反対だ」という理屈は軍を持つ国民の常識ではない。迎撃しなければ、敵の核爆弾が炸裂する。基地も周辺ももろ共にすっ飛ぶのである。その恐ろしい爆弾を迎撃できるのであれば、自分のことはどうでも良いと考えるのが国民としての常識だろう。
 地元の文句もさることながら、河野太郎防衛相がミサイル防衛の方式を根本から変える決心をしたのには、重大な判断があったとみるべきではないか。
 最近、北朝鮮も中国も変則の軌道を飛ぶロケットを開発したという。放物線や曲線を描いて飛んでくるロケットなら、従来の兵器でも軌道の予測は一瞬で出来る。しかし軌道が予測できないロケットに対しては従来の迎撃方式は無力である。毎日1発ずつ原爆を打たれる。昔の日本は広島と2発目の長崎で降参した。
 この方式が有効だと思えば、中国は必ずこの方式でやってくるだろう。イージス・アショアでは守り切れない時代が来たと判明した訳だが、それに代わる手段は何か。自民党は7月中に意見をまとめる方針を決めている。政府は6月24日、国家安全保障会議(NSC)、大臣会議を開き敵基地攻撃能力の保有の是非や、次世代のミサイル防衛体制などの検討に着手した。9月までに方向性を示すことを目指している。NSCは国家安全保障会議と呼ばれ、こういう事態に対処するために安倍首相がこしらえた組織である。大臣会議は安倍首相、麻生副総理兼財務相、菅官房長官、茂木外相、河野防衛相が参加する。
 9月末ごろ来年度予算の骨子が纏まるがその際、敵基地を敲(たた)く何らかの方法が盛り込まれるのではないか。相手方だけが迎撃されない武器を持つ事態が続けば、国家の存立は危うい。   
 中国共産党のやり口を見れば、香港は50年の寿命を貰ったのに23年で首を絞められた。その方法は本国で香港統治の方式を決めるという無法極まりないものだ。やり返す手段を持たなければ、日本も第2の香港になる。
 (令和2年7月8日付静岡新聞『論壇』より転載)