「コロナ事件は中国の陰謀か?」

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会長・政治評論家 屋山太郎

 最近新型コロナに関する記述を控えていた。このコロナウイルス事件が、現代史上で起きた最大級のパンデミック(世界的規模の感染爆発)だと認識している中で、日本の新聞を見ると給付金1人30万円を1人10万円にしたのは誰か、などと仔細に書かれている。世界最大級の症例を前にして、そんなことはどうでもいい。考えるべきは患者が世界全体に広がり、実に1,600万人にもなるのに、まだワクチンが開発されていないことだ。
 米国は世界最多で410万人の患者を抱えて、14万人が死亡した(7月26日現在)。世界全体では1,600万人が感染し、64万人が死亡した。感染者数は、毎日じりじりと上っているが、中国の感染者はここ数ヶ月8万人台で死者は4,000人台。
 トランプ大統領は中国が資本主義経済を目茶苦茶にしたというので、厳しいバッシングを加えている。その象徴がファーウェイという中国最大の通信機器企業を米国の安全保障を脅かすという理由で米国圏からはじき出そうとしていることだ。これは中国経済をぶっ壊す意思を率直に表している。
 米国の中国つぶしに対する中国の復讐がコロナ騒ぎでないか。敵に410万人の打撃を与え、大統領選も危ない所に追い込んだ。復讐劇だとすると、自己の被害を最小限に抑え込まねばならない。中国の感染者は8万人台、死者4,000人台は、戦争の傷病者、戦死者として見てみると、中国側の大勝利である。しかもこの数は増えていない。
 こういう想像を紙に書いてしまうのはジャーナリストとして軽率すぎる。デマの類として見られる危険がある。ところが、楊逸(ヤンイ)氏の『わが敵「習近平」』という本を読んで大きな衝撃を受けた。楊氏はハルピン生まれの中国人で、現在日本に帰化している。日本語を母語としない外国人として『時が滲む朝』で芥川賞を授与された人物だ。元中国人が書いた「習近平」という題名にひかれて買ったところ、本文冒頭の2行を読んで驚いた。
 「私は、今回の新型コロナウイルスは『中国が世界に仕掛けた戦争』ではないかと考えています。中国は世界に対して秘かに攻撃を開始したのではないか」とある。
 楊氏によると新型コロナウイルスは「武漢ウイルス研究所のP4実験室や中国疾病予防コントロール傘下の武漢疾病予防コントロールセンターの実験室でコウモリから分離して創られた。これは2015年11月9日の「ネイチャー・メディシン」で公開されている。これはSARSの遺伝子から「逆遺伝学」という手法を用いて作成されたという。
 一方で世界保健機構(WHO)のテドロス事務局長の動静や、中国の家来になり下がった動機にも触れている。楊氏は女流作家というよりも調査報道に徹したジャーナリストだと感じた。
 頷ける指摘が多く、この書を読んで私は心の中の疑問や懸念の多くが吹っ切れた。この事件は壮大な陰謀の臭いがしてならない。
(令和2年7月29日付静岡新聞より転載)