澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -476-
司法に判断を委ねる米大統領選挙結果

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2020年)11月27日現在、米大統領選挙の結果は、バイデン前副大統領勝利で“決着済み”と考えている人が多いのではないだろうか。特に、米連邦政府一般調達局(GSA)がバイデン陣営の「政権移行手続き」を承認したからである。
 だからと言って、GSAがバイデン候補の大統領選勝利をまだ認定していない(マーフィー局長が民主党に脅迫され、仕方なく「政権移行手続き」だけを承認したという説がある)。他方、トランプ大統領陣営も敗北を認めた訳ではない。したがって、選挙結果の行方は依然、不明だと言っても過言ではないだろう。
 事実、米大統領選挙は、司法に判断を委ねる段階に突入した。ここで、興味深い記事が2本あるので、概略を紹介したい。
 一つは、「ヘビー級!ペンシルベニア州判事が選挙結果の認定停止を命じる」(『万維読者網』2020年11月25日付)という記事である。
  11月24日、ペンシルベニア州のキャシィ・ブックバー(Kathy Boockvar)州務長官は、同州でのバイデン候補勝利を確定した。しかし、同州のパトリシア・マカルー(Patricia McCullough)連邦裁判所判事は、翌25日、裁判所が 27日に公聴会を開くまで、州当局者による2020年の大統領選挙の結果承認を暫定的に禁じている。
 同州の裁判所命令は(アレゲニー郡を含む)いくつかの“未決投票”に影響を与えるかもしれない。以上が記事の内容の一部である。
 もう一つの記事は、「ネバタ州:(不正選挙の)証拠提示が許可され、トランプの法律戦は重大な進展を遂げる」(『米中快報』2020年11月25日付)である。
 ネバダ州裁判官は、トランプ陣営が同州での大統領選挙でバイデン側の不正行為・違法行為の証拠提示に同意した。これはトランプ陣営にとって初めての大勝利であり、うまくいけばバイデン候補の選挙人獲得州で勝利を覆すことができるかもしれない。他の激戦州での“見本”となるだろう。
 トランプ関係者によれば、裁判官は来月12月3日に公聴会を設定し、15の宣誓供述書開示を許可した。さらに、トランプ陣営は、(民主党が優勢なクラーク郡での)数万人の郵送投票否決につながる証拠を提示する予定である。
 また、ホワイトハウス補佐官のマーク・メドウズ(Mark Meadows)はツイッターで「ネバダ州裁判官は共和党議員が、12月3日、公聴会で広範な選挙詐欺に関する調査結果を発表できるよう許可した。これは、選挙の透明性を高め、違法な投票を是正するための重要な一歩になるだろう」と指摘した。以上が記事の概要である。
 このように、激戦州であるペンシルベニア州とネバダ州で、司法機関が投票結果の調査を開始した。ペンシルベニア州(選挙人20人)とネバダ州(選挙6人)では、バイデン候補が選挙人をすべて獲得している。ひょっとすると、それが覆され、トランプ大統領が選挙人を獲得する可能性が出てきた。
 仮に、他の激戦州で1州(例えば、ジョージア州<選挙人16人>、あるいは、ミシガン州<同>等)でも司法判断を仰ぐようになれば、12月8日までに「当確」となったバイデン前副大統領(選挙人306人獲得)の選挙人が270人に届かず、「当選」には至らない。その場合、たぶん来年1月6日、下院での各州1票の決戦投票で次期大統領が決定される運びとなるだろう。
 周知の如く、トランプ弁護団の代表格は、元ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ(Rudolph Giuliani)である。一方、元連邦検察官のシドニー・パウエル(Sidney Powell)軍事弁護士は大統領弁護団から離脱し、独自の道を歩むようになった。
 パウエル弁護士は、ジョージア州のドミニオン製投票集計機による不正選挙と米国選挙での「外国からの侵入」を主張し、11月25日に訴訟を起こした(氏の「クラーケン<海の怪物>が放たれる」という暗示的コメントが印象的である)。同弁護士はジョージア州(ブライアン・ケンプ州知事とラッフェンスパーガー州務長官ら)とミシガン州(グレッチェン・ホイットマー州知事とジョセリン・ベンソン州務長官)に対し「大規模な選挙詐欺」訴訟を起こしたのである。
 ただ、パウエル弁護士の起こした刑事訴訟がいかなる経過を辿り、どのような結末を迎えるのか、現時点ではまったく分からない。もし、裁判沙汰になれば、おそらく12月8日までの期日内に、両州の当選者は決着がつかないのではないか。
 トランプ大統領としては、自らに投じられた“合法的な票”でバイデン候補を撃破するのが理想的である。だが、もしかしたら、大統領陣営は、バイデン候補が期日内までに選挙人270人確保できない状況になれば、それだけで十分なのかもしれない。
 そうなると、トランプ大統領が、来年の下院選挙で「逆転勝利」となる公算が大きいからである。
 以上が、トランプ大統領「逆転勝利」へのシナリオではないだろうか。
「Japan In-depth」より転載