2020年米大統領選挙―Trumpismの継続

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政策提言委員・筑波学院大学名誉教授 浅川公紀

◆法廷闘争へ 
 まれにみる激戦となった2020年米大統領選挙は、一時沈静するかに見えた新型コロナ・ウィルスの感染拡大が再び深刻になる異常な状況の中で実施された。世論調査では、民主党候補のバイデン前副大統領(77)の優勢が伝えられ、再選を目指す共和党候補トランプ大統領(74)が追う形で11月3日の投票日を迎えた。
 11月3日の大統領選は、12月14日に実施された選挙人投票では、306対232人でバイデン前副大統領の勝利を支持する結果が出ている。だが、トランプ陣営、共和党が民主党側の不正を主張し、厳密には、いまだ決着を見ておらず、継続している。
 選挙での投票の方式が米国内の州によって微妙に異なるが、今回は郵便投票が感染防止のためにこれまでになく大きな割合を占め、州によっては9月からの郵便投票が許可された。トランプは開票前から郵便投票は不正の温床だと強調していた。法廷闘争に出る事態が既に現実味を帯びていた。郵便投票は封筒を開けて有権者の投票資格に問題がないか、登録済みの署名と一致するかなどを確認して票を数える。本人確認をその場で済ませる投票所での投票と比べて手間がかかる。
 11月3日午後現在で郵便を含めた期日前投票を済ませた人の数は1億人を突破。投票予想1億5,000万人あまりの60%を超える。前回2016年は、投票可能な18歳以上の市民2億5千万人のうち総投票1億3,700万人で、事前投票は5,800万人だった。トランプ陣営は郵便投票に不正行為があったばかりでなく、様々な不正行為があったとして法廷闘争に打って出た。それがクライマックスに達している。
 
◆ナバロ報告
 折から、ナバロ米大統領補佐官(通商製造政策局長)は12月17日、今回の大統領選挙で民主党のバイデン候補支持陣営に大規模な不正があったとする36頁にのぼる詳細な報告書「完璧な詐欺:選挙」を発表した。
 報告書は主要な争点となる激戦6州(ペンシルベニア、アリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ウィスコンシン)における選挙不正疑惑を6つの側面から検証、特定している。6つの側面には、明白な投票不正、票の取り扱いミス、争いになるプロセスの反則、平等保護条項違反、投票機の欠陥、及び重大な統計的異常が含まれる。
 「これらの不正が完全に調査され、認められなければ、今後、公正な大統領選が実施されないという大変なリスクを負うことになる」と、今回の選挙の正当性を否定し、政府や議会に対して本格的調査開始を訴えている。
 報告書は様々な不正事例を挙げている。ペンシルベニア州では、トランプ陣営の統計分析で、有権者名簿を調べたところ、8,000人の死者が郵送で投票したことを発見した。ジョージア州では、いかなるカテゴリーにも不正があった場合や、投票死者数がバイデンの勝率に匹敵するなど、選挙結果が覆す可能性がある。激戦6州の集計はいずれも僅差である。
 これまでは開票後に米報道などで選挙人の過半数獲得が確実になると、負けた候補者が敗北宣言して勝者を称えるのが通例だった。2000年大統領選はフロリダの僅か537票の差を巡って法廷闘争が繰り広げられ、最終決着は投開票から37日後だった。
 
◆トランプ弁護団の主張
 ナバロ報告は大統領選挙の結果をめぐる対立で、トランプ弁護団の主張と軌を一にすると言ってよい。トランプの弁護団長を務めるルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長、シドニー・パウエルら弁護団代表は11月19日、ワシントンで記者会見を行い、選挙結果をめぐる法廷闘争の現状について明らかにした。弁護団は、目的が選挙戦の勝者を変えることにあるのではなく、自由で公正な選挙を守り、憲法を保護することにあると明言、偏向メディアに支配された世論の場での勝敗をするつもりはなく、事実の審査が行われる裁判所での法廷闘争、証拠に基づく判決を求めることを強調した。選挙の不正を示す数千件の証拠があり、裁判所に提出したと述べた。
 ジュリアーニは、約10の州の民主党が支配する大都市で同様のパターンでバイデンを勝たせるための選挙不正が行われたとし、それが民主党幹部により中央から計画、指揮、実行されたものと見られるとの見方を示した。フィラデルフィア、ピッツバーグ、デトロイトなどこれらの都市は、長い選挙不正の歴史がある都市であるという。更に不正を示す証拠はフィラデルフィアに関するものだけでも図書館を埋め尽くすほどの量になると強調した。
 ジュリアーニによると、選挙不正が行われたこれらの都市では、民主党が「選挙管理委員会、法執行機関、更には残念なことに自分達に有利な馬鹿げた非合理的な意見を出す友好的な判事まである一定の支配をしている」と述べた。ペンシルバニア州では6万9,000票バイデンがリードしているという結果になっているが、68万も集計に際して検査されなかった票があった。合法的な票が集計されるなら、トランプがペンシルバニアで30万票、ミシガン州で5万票の差をつけて勝利したことを証明できると言明した。ミシガン州は、当面、票の集計結果を承認しない決定を下した。またトランプ陣営の弁護士が殺人脅迫を含む脅迫を受けているとし、2人の弁護士が脅迫に耐えかねて辞任したと説明した。主要メディア、大手SNSの検閲は「進行中の選挙不正と同じくらい危険なものだ」と警告した。
 ジュリアーニの説明によると、バイデンが投票日数日前に最も大規模な選挙不正組織を創りあげたといっていたように、極めて巧妙な不正が行われたが、不正はいつもボロが出るものであり、その結果トランプ側弁護団がその不正の証拠を掴んだと指摘した。また主要メディアによる報道は殆ど「選挙不正と同じくらい不正直なもの」だったと批判した。
 ジュリアーニは、ミシガン州の220人の宣誓供述書やペンシルバニア州の宣誓供述書の一部を明らかにした。同一有権者の複数回の投票、郵便の消印の期限後日付から期限前日付への不正な変更、死者や投票資格のない者による投票、デトロイトでの11月4日未明の食品運搬用トラックによる大量の封筒なしのバイデン票の搬入と複数回の不正集計、共和党選挙監視人の排除、ペンシルバニア、ミシガン、ウィスコンシン、ジョージア州の一部の郡での登録有権者数の2倍、3倍の投票数、などを指摘した。
 
◆集計システム操作
 またベネズエラの独裁者故チャベス大統領に近い2人のベネズエラ人が所有する会社スマートマティックの集計ソフトにより、集計がドイツ、スペインで行われたことを強調した。選挙監視人が検査できなかった票をそのままにして行われたジョージア州の再集計結果は無効であるとの見方を示した。ジョージア、アリゾナ、ニューメキシコ州、バージニア州での選挙不正の存在を明らかにし、訴訟を新たに提起する意思を表明した。
 パウエルは、ベネズエラで開発された選挙不正のためのドミニオン集計システム、スマートマティックの利用、中国、キューバ、ベネズエラなど共産主義国の米大統領選への介入を指摘し、国家安全保障上の深刻な懸念もあることを明らかにした。パウエルは、ドミニオン投票システム、アルゴリズムが票を入れ替える機能を持ち、トランプ票をバイデン票への大量入れ替えが行われた。トランプ票が予想外に伸び、機械的な票の入れ替えが間に合わない状況になった時に集計作業を停止し、事前に準備されたバイデン票を裏口から集計所に運び込む不正工作が行われたとの見方を示した。ドミニオンの会社幹部がデトロイトの集計現場に出向き、集計システムを操作して、不正集計を手助けしたことも明らかにした。更に大きな問題をもつドミニオンの集計システムやソフトウェアが米国に持ち込まれるのがなぜ許容されたのか理解できないと述べた。その上で本格的な刑事捜査を開始する必要を訴えた。ベネズエラのチャベス故大統領がアルゼンチン、その他の南米諸国の不正選挙の手段を欲する独裁者に売却したと述べた。
 トランプ陣営が起こしている訴訟で、裁判所がどう判断するかは不明な部分も多いが、ジュリアーニ、パウエルらは集めた証拠に自信を持っているとされる。裁判所の判事が提出される選挙不正の証拠をどう判断するかは、判事の法律の解釈、政治的立場、世論の圧力などにより影響を受ける可能性がある。下級裁判所が選挙不正は集計結果を無効にするほど重大なものであると判断すれば、選挙人票による投票方式が実施されない可能性もある。
 
◆反トランプの主要メディア
 主要メディア、SNSが反トランプの立場に立っているため、トランプ陣営やその弁護士団の主張、情報はほとんど無視されるか、報じられても「根拠のない主張」、「証拠がない主張」として黙殺されている。半面、米国民の多くが主要メディア、特にテレビネットワークに対して不信感を強めている。米調査会社ニールセンが今回の選挙に際してメディアに関して行った調査によると、2016年には7,143万人が大統領選挙投票日夜に米主要メディアの選挙特別番組を視聴したのに対して、2020年には11月3日夜に主要メディアの選挙特別番組を視聴したのは5,690万人に減り、20%の減少を記録した。米主要メディアの影響力は依然として大きいとは言え、その信憑性、影響力は低下している。また保守派のラジオトークショーやニュースマックス、エポックタイムズ、NTDなどインターネットメディアはトランプ陣営の主張や関連情報を拡散しており、その情報がインターネットを通して拡散している。所謂「沈黙の大衆」と呼ばれる米国民が、大掛かりな選挙不正により投票結果が歪められたと感じており、草の根から「ストップ・ザ・スティール(選挙が盗まれるのを阻止せよ)」という運動が起こってきている。
 11月14日には、米首都ワシントンで数万人が参加して、法廷闘争を続けるトランプへの支持を盛り上げ、公正な選挙を求める抗議集会が開かれた。参加者は、ホワイトハウス近くの広場から連邦最高裁判所に向けて行進し、「米国を再び偉大にする」、「トランプ2020」などと書かれた旗やプラカードを掲げ、「選挙を盗むな」、「あと4年!」などを叫んだ。同様の集会が、同日、ペンシルバニア、ジョージアなど選挙不正が問題になっている州でも開かれた。これらの集会は平和的な集会だったが、ワシントンでは夜になって極左組織アンティファの活動家やBLM(黒人の命も大切)左派の活動家が駆け付けて、デモ抗議参加者に暴力をふるう事件が起こり、20人以上が逮捕された。
 11月21日には、ジョージア州アトランタの州議会議事堂前で数千人が集まり、「選挙を盗むな」集会が開催された。少し離れた場所では、ヘルメット、盾、一部ライフル銃などで武装した活動家が参加し、「トランプ、ペンス、出て行け」などのプラカードを持ってより小規模なアンティファの反トランプ集会が開かれた。両者の間には、警察隊が陣取って、両者を分離した。アトランタでは18日から連日、抗議集会が行われている。またペンシルバニア州ハリスバーグでも、トランプの法廷闘争を支持する街頭集会が数百人を集めて継続している。抗議集会では、民主党の選挙不正とともにメディアの偏向を非難した。「選挙を盗むな」運動は、11月29日から12月12日までフロリダ州南部から首都ワシントンまでバス・ツアーによる「トランプのための行進」集会を開催。選挙人投票が行われる12月14日の直前の週末の12月12日にはワシントンで大規模祈祷集会を行った。トランプの法廷闘争を継続的に支援してゆくことになっている。
 
◆トランプ劇場は続く
 12月になってミシガン州の票集計機、ソフトウェアの監査が実施され、68%のエラー率が確認され、そのエラーも選挙結果に影響を及ぼすよう意図的にエラーが設定されていたという結論が出された。選挙の集計システムの許容エラー率は1%以下であり、これは到底看過し得ることではない。このほか、ジョージア州では集計施設で水道管が破裂したという口実で大部分の選挙集計スタッフを帰宅させ、残った4人の集計スタッフが誰もいなくなった部屋で隠していた複数のスーツケースに一杯詰まった大量の投票用紙を取り出してその票の同じ束を少なくとも3回集計機に通している場面を監視カメラが捉えた画像が不正の証拠として示された。不正を行ったスタッフの身元も確認されている。
 選挙不正を示す証拠は増えているが、これらは主要メディアから完全に無視され、メディアは「まったく根拠にない不正の主張」、「虚偽の主張」といった批判を繰り返している。米国民の多くは、選挙不正があったとされる4州をテキサス州が連邦最高裁に憲法違反として提訴し、その提訴を他の20州以上、120人以上の連邦下院議員が支持した。しかし連邦最高裁は提訴を訴訟資格の問題を理由に棄却し、主要メディアからの批判が予想される不正そのものの主張には目を瞑った。これはワシントンや各地で不正が覆い隠されようとしていることへの大規模な抗議集会を誘発した。
 12月14日には50州各州での選挙人投票が実施され、選挙人票は封印されワシントンに送られた。1月6日に連邦議会上下両院の立ち合いのもとに開票され、次期大統領が正式に確定する。ところが7州で共和党は選挙結果を無効にするに十分の不正が確認されたという理由から独自に選挙人の投票を実施し、その選挙人票も封印されたワシントンに送付された。1月6日の選挙人票開票の際に少なくとも下院議員1人と上院議員1人が開票結果に異議を申し立てれば結果が議論され、場合によっては一部州の選挙人票が無効になる可能性がまだ残っている。既にモー・ブルックス下院議員が異議申し立てを行うことを公言しており、テッド・クルーズ上院議員も異議申し立てを検討中とされる。またトランプ弁護団の複数州での訴訟もまだ継続中であり、不確定要因になっている。米国史上前代未聞の事態である。
 バイデンが1月6日に次期大統領に確定したとしても、トランプ支持者やトランプ支持でなくても空前の規模の選挙不正があったと考え米国の民主主義の崩壊を懸念する市民は米国人口の半分くらいになると見られ、彼らの不満は解消されないまま残り続ける。彼らがトランプイズムを継続させることになるだろう。
 トランプは2016年の前回大統領選同様、世論調査で不利とされていた事前予測を覆す底力を発揮した。暫定集計で前回選挙を1,000万票上回る7,300万票を獲得。2008年大統領選でオバマ前大統領が獲得した6,949万票を抜き、史上最多を更新した。トランプ支持層は多くの観測筋の見立てよりも規模が大きく、忠誠心が強かったことが浮き彫りになった。バイデン新政権が誕生しても、トランプ支持層の「岩盤」の硬さと深さを改めて認識することは、今後の米国を見る上で極めて重要な視点だ。
 議会選挙でも共和党が善戦した。選挙前は、民主党が上下院ともに議席を伸ばし、上院でも過半数の議席を獲得する『ブルーウエーブ(青い波)』への期待もあった。上院(100議席)でも民主党の多数が実現という見方が専らだったが、共和党における多数は守られ、民主党が多数を占める下院(435議席)は議席数増の見通し。上院は1月5日のジョージア州選出の2つの決選投票結果で第117議会の議席構成が決まる。トランプ劇場終わらずと言える。
 トランプの発想と行動は、歴代大統領とかなり相違しているということが目についた4年間だった。そのトランプが現職大統領としては最多となる7,300万票を獲得した。理由のないことではない。主要メディアで論じられることの少ない「トランプ大統領の事績」について、評価する市井の人々の意識がある限り、トランプが表舞台から姿を消すことなく、寧ろトランプ劇場への郷愁に似た思いが米国民の中に醸成されていくものと思われる。7,300万票は、トランプ再登板、或いはトランプ的な指導者の登場への道を開く可能性を秘めているのである。