「日本は中国の膨張、人権蹂躙を許してはならない」

.

会長・政治評論家 屋山太郎

 中国は尖閣諸島を取り巻く海域を実質的に占拠し、尖閣を中国の領有と世界に認めさせようとしている。中国の新しい「領域警備法」が2月1日、発効した。もともと中国の海警と日本の海保には雲泥の差があった。
 日本の石垣海上保安部巡視船「いぜな」は尖閣専従で全長96メートル、総トン数1,500トン。20ミリ機関砲を装備する。一方中国の海警は排水量12,000トン級の大型船で、海軍並みの76ミリ砲を備えたものである。先端には何トンもの鉄の塊が仕込んであって体当たりされれば、日本の巡視船は一撃で沈むとも言われている。
 その海警に中国は2月1日から武器の使用を認めた。実態は中国の海軍対日本の海保の対戦となる。一方で中国は2020年の1年間で333回も日本の接続水域内にとどまった。中国の狙いは、常時、中国が駐在し、日本は沈黙していると世界に宣伝し、「尖閣は中国領」と宣伝することである。
 日本が反撃しようとすれば自衛艦を出動させる以外にない。日本政府はこんなに差を付けられるまで無策だった。中国政策が根本から間違っていたと言わざるを得ない。
 習近平氏はトランプ氏に散々痛い目に遭ったが、局面打開を図るために1月のバイデン大統領就任式に向けて昨年、大量の短距離弾道ミサイルを発射した。ところが意に反してバイデン氏は菅首相との1月29日の電話会議で「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて協力することで一致した。バイデン氏は昨年11月の首相との電話会談では「安定的に繁栄したインド太平洋」との言葉を使った。これでは八方美人的で政策の方向性は分からない。しかし側近の国務長官アントニー・ブリンケン氏らは明白に「自由で開かれた」という言葉を使っている。
 「自由で開かれた」の真意は、南シナ海の中国領有、占拠は認めないぞという意味で、安倍晋三前首相の発想である。将来、日米豪印の4ヵ国(クワッド)の軍事同盟に発展する可能性もある。これに英仏独の欧州主要3ヵ国が「加わる」という意思表示がすでに明らかになっている。中国の膨張は許さないという同じ国の意思決定はなされている。
 この際、日本に重要なのは台湾との密接な連携である。中国の香港への対応を見ると、習氏は台湾を占領するのは武力を使えば簡単と思っている節がある。しかし香港と台湾は基本的に違う。台湾は強国並みの武力を保有している。台湾の世論調査(政治大学)によると、台湾に住む人の67%が自分は中国人ではなく、台湾人だと認識している。中国人だと思っている人は2.4%に過ぎない。20歳から39歳の台湾人の7割が、中国人が侵攻したら戦うという。
 これだけ独立志向が強く、日本と仲良く同朋関係にある台湾を守れなかったら、日本はウイグルもブータンも内モンゴルも、どの国も救えない。中国の蹂躙を許していいのか。
(令和3年2月3日付静岡新聞『論壇』より転載)