「異形の大国中国の本質露呈」
―アラスカ発“米中外交トップ会談”―

.

会長・政治評論家 屋山太郎

 アンカレッジにおける19日の米中外交トップ会談は異例の激しさだった。軍備の増強や国境周辺の異民族への圧迫を非難された中国は、「米国は上から目線でものを言うな。これが2、30年前であったとしてもその資格はない」とも述べた。外交辞令など頭の隅にもない居直った態度だ。党の幹部クラスはこの現象を「中昇米降」(中国が発展し、米国が落ち目)と名付けて有頂天になっているという。これに先立って16日開かれた日米外務防衛担当閣僚会合(2プラス2)の共同文書では香港、台湾への懸念が盛り込まれた。
 中国外務省の副報道局長は「日本は米国の戦略的属国となり、信義を捨て日中関係を破壊することもいとわない」と非難した。中国の日本や米国に対する言葉には、これまで以上の毒が含まれている。それは習近平国家主席の想像以上の気短な性格による。
 香港問題は民主派の議員が大勝した後に本国で全権限を剥奪するような“暴政”を行った。この現実を見せつけられれば、台湾選挙で蔡英文氏が大勝するのは必然だ。1月20日の米大統領就任式をはさんだ1週間、米軍は中国の突発的攻撃に備えた。中国の思惑では台湾占領は1~2週間、米軍が米大陸から駆け付けるのは1ヵ月。このバランスの中で自衛隊にどのような関与が許されるのか。
 米国は対台湾戦略を練り直し中だと言うが、従来のような大艦巨砲主義は成立しないと決めたという。一隻のイージス艦とミサイル、小型潜水艦を集めた小グループの集団を数多く作る。一方で半潰れになっているNATOの再建、日本の軍事力強化を図るという。
 日本の軍事力強化の玄関口には憲法改正という大仕事があるが、この入り口から入って、防衛政策を練り直すなどと言う時間はない。
 NATOが結成された頃、西ドイツの懸念は周囲の仏、英国が核を持ち、自国だけが持たない不安があった。西独が熱望した結果、米国はドイツに核のボタンを押す権利を任せた。俗にいう「ダブルキー」、正確に言えばNATO型の核シェアリングである。
 21年2月新戦略兵器削減条約(新START)が効力を発生した。この条約の基となった報告書は、米国のダールダー元NATO大使が世話役となって取りまとめた。このグループは「ニュークリアゼロ」を主張している団体だが、日本やドイツ、豪州、韓国が非核兵器国であるのは、米国が核の傘を保障してきたからだ。だとするなら日米同盟を基礎として日米両国がともに米国の核兵器を配備、管理しても良いとの結論に至った。発火点はドイツの「ダブルキー」だが、これが生み出されたのは周辺国が持つ核武装や関連した戦術核兵器である。周辺国の恐怖がドイツの核戦略を生み、それがダブルキーをもたらした。
 これに反して長い歴史の中で、日本の首脳が核のカサの信頼性について糺したことは一度もない。菅首相の顔面からぎらぎらする国防魂を感ずることはできない。
(令和3年3月24日付静岡新聞『論壇』より転載)