融通無碍は悪いことではない

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 1月5日付『朝日新聞』に、岸田文雄内閣の政策対応について、「融通無碍」だとする論評記事が掲載されていた。その一例として挙げられていたのが、18歳以下の子ども1人あたりに10万円を支給するという施策だ。公明党が選挙中に「未来応援給付」として打ち上げていた公約だ。当初、高市早苗政調会長は、「自民党の考えとは違う」と否定的だった。総裁選中も高市氏が掲げていたのは、「新型コロナで苦しむ低所得世帯などへの10万円給付」だ。
 それが公明党の顔を立てるために、年内に現金で5万円、翌年にクーポンで5万円分を渡すということになった。ところが事務作業に1,200億円もかかることが判明し、自治体からも「年内に10万円を」という声が相次ぎ、現金で10万円を年内支給という方向に舵を切った。朝日記事は、これを「あっさりとその姿を変えた」「融通無碍」だと批判的に書いている。
 だが融通無碍というのは、「行動や考えが何の障害もなく、自由で伸び伸びしていること」という意味であり、悪い言葉ではない。反対語は「四角四面」や「杓子定規」だ。これでは臨機応変の対応は出来ない。
 新型コロナは、オミクロン株という新しい変異株によって、また感染者が激増している。桁外れな感染者が出そうだ。感染力が強いとか、重症化リスクは弱いようだと言われているが、まだその正体の全貌が分かっていない。こういうときには、強めの対策を取り、臨機に緩めていくというのが基本だ。
 昨年の11月、政府は外国人の新規入国の禁止、この延長線上で国交省が12月末まで国際線の新規予約を止めるよう航空各社に要請した。だがこの要請は、海外にいる日本人の帰国も不可能にするものだった。そのため何とかならないかという声が上がり、岸田首相は3日後に撤回した。朝日記事は、これを拙速だと批判するが、そうは思わない。この程度の軌道修正は今後もあり得る。
 オミクロン株の感染者が出た飛行機の同乗者全員を濃厚接触者として自宅・宿泊施設での2週間の待機措置も、厳しい措置であった。だがオミクロン株の市中感染が始まると、水際対策の骨格を維持しつつも、国内対策に軸足を移した。ただ心配なのは、症状によっては自治体の判断で自宅療養を可能にしたことだ。1月6日付『産経新聞』「主張」でも、「安易に自宅療養を検討する前に、まずは宿泊療養施設の積極活用が重要だ」と指摘している。自宅療養は家族への感染リスクを高めるからだ。
 アメリカのメルクが開発した「モルヌピラビル」は、新型コロナウイルスの重症化を防ぐ初めての飲み薬で、昨年12月24日に国内での使用が承認された。だが入院・死亡リスクを下げる効果は30%程度だという。アメリカFDA(食品医薬品局)は12月22日、ファイザーが開発した新型コロナの重症化を防ぐ飲み薬「パクスロビド」について緊急使用の許可を出した。この薬は、発症から5日以内に投与した場合、88%の効果があるという。日本は2月に承認するという。もっと早めるべきだ。