侵略はプーチン体制の終焉の始まりか

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 ロシアで情報統制を強める法律が成立した。軍事をめぐる報道や発信の内容を当局が虚偽と判断すれば、記者らに最大15年の禁錮刑を科すという。戦争批判を封じる言論弾圧である。
 そもそもロシアのウクライナ侵略は、「8年間、『集団殺害』にさらされた人々を守るため、ウクライナの非ナチ化、非武装化をはかる」という嘘から始まった。その後も「砲撃は軍事施設だけ」「民間人は攻撃しない」と言いながら市庁舎、病院、学校、住宅など無差別爆撃を行なっている。「原発に放火したのはウクライナの工作員」だなどと子供だましの嘘まで平気でついている。ロシア国内には、本当の情報をまったく報道させない。それにも関わらずロシア国内全土で反戦デモや集会が行なわれている。
 この戦争が正しいものだと自信を持っているのなら、報道管制、報道弾圧など必要がない。その自信がないから弾圧するのだ。こういうのを“語るに落ちる”と言うのだ。
 いま政権に批判的なメディアは相次いで閉鎖し、これまでに報じた記事も削除された。外国人記者も対象となる可能性があるため、多くの国外メディアが、ロシアからの報道を中断している。かつてなかった異常事態である。
 2月26日付『産経新聞』に、アメリカの歴史学者で戦略家のエドワード・ルトワック氏の興味深いインタビュー記事が掲載されている。「傀儡政権を早期に樹立できたとしても、その後の事態はプーチン氏に厳しい展開となる」と言う。なぜなら、ロシア軍十数万人程度の兵力では、キエフなど一部の都市は占領できても、ウクライナの完全制圧は不可能だからだ。
 ルトワック氏は、戦争の勝利に必要な要素は、「自国民の支持」と「自軍の被害を最小限に抑えて成果を上げること」だと指摘する。まだまだ真相がロシア国民には知らされていないためプーチンへの国内での支持は高いそうだ。だが今後、戦争の真相が分かり、戦争被害者が拡大し、経済制裁の影響が大きくなっていくと一気にロシア国内の世論も変化する可能性がある。ルトワック氏のインタビューは、「侵攻は、プーチン軍国的権威主義体制の『終焉の始まり』を告げる可能性をはらんでいるのだ」と結ばれている。
 プーチンは、「現代のウクライナは完全にロシア、正確にはボリシェビキ(後のソ連共産党)がつくった」などとも語っている。ソ連時代KGB(ソ連国家保安委員会)の中佐だったプーチンには、反共意識はないだろう。崩壊してしまったが超大国ソ連への郷愁を感じているように思えてならない。
 ソ連共産党の独裁ではないが、結局、プーチン独裁になっているのがいまのロシアの現状である。ソ連はなぜ崩壊したのか。覇権主義と軍事大国化による軍事費の圧迫であり、経済運営の失敗である。だがプーチンは核兵器の使用までちらつかせてウクライナに圧力をかけている。ロシアのGDP(国内総生産)は日本の4分の1以下である。核兵器と軍隊以外は大国でも何でもないことをプーチンは知るべきだ。