いまの韓国には民主主義も三権分立もない

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顧問・麗澤大学特別教授 古森義久

 「いまの文在寅政権下の韓国は事実上の内戦状態にあり、民主主義も三権分立もないから日本側は正常の国を相手にしているつもりになってはならない」――こうした辛辣な文政権批判が韓国の保守派知識人から表明された。韓国内の反文在寅勢力の手厳しい政権糾弾だが、こうした意見が日本国内で述べられるほど、いまの韓国内部の分裂や混乱は底が深いのだといえそうである。
 
 かつて韓国政府の外交官として在日韓国大使館の公使や参事官を務め、現在は学者や評論家として活動する洪熒(ホン・ヒョン)氏は7月29日、東京都内の民間安全保障・外交研究機関の「日本戦略研究フォーラム」(屋山太郎会長)が主催した討論会で「日韓関係——策はあるのか」と題して演説し、質疑応答に応じた。

 洪氏は韓国陸軍士官学校卒業で軍務に就き、ベトナム戦争にも韓国軍将校として参加した。日本在住も長く、早稲田大学客員研究員を経て、現在は桜美林大学客員教授、在日韓国人向けの新聞「統一日報」主幹をも務める。政治的には韓国の保守派として文在寅政権の内外政策に激しい批判をぶつけている。
 洪氏はこの演説でまず現在の日韓両国の対立については以下の諸点を述べた。
 ・文政権は反日の感情やイデオロギーを韓国民に対する洗脳や扇動で広め、自分たちの共産主義的全体主義の体制の推進に利用している。この「官製反日」の真の目的は決して元徴用工や慰安婦の問題ではjなく、北朝鮮や中国ともひそかに連携して韓国を日米側から引き離し、北朝鮮・中国側に接近させることである。

 ・日本側は文政権が過去や現在の国際的な公約、合意を守ることを期待すべきではない。文政権にとっての約束は本来の政治目的の達成のために利用し、ごく簡単に破る便利な道具なのだ。日本側は韓国への輸出優遇の撤廃措置をめぐるいまの対立でも話し合いでの合意は望めないことを覚悟すべきだ。

 ・韓国側には文在寅大統領の反日姿勢に反対する国民も多数、存在する。だから日本も米国のトランプ政権のいまの対韓政策と同様に、文在寅政権を韓国の国家全体や国民からは切り離して考えるという態度が望ましいと思う。

 洪氏は文在寅大統領や文政権のあり方そのものについては対立、対決の立場から以下の諸点を語った。
 ・文在寅大統領は北朝鮮の金正恩委員長とは双子の兄弟のように思想や信条が似ており、究極的には北朝鮮や中国と連帯して、共産主義、社会主義の独裁政治体制を築くことを目指している。文大統領は北朝鮮の長年の戦略目標である韓国の国家保安法の廃止、国家情報院の解体、在韓米軍の撤退に本音では同調している。
 ・いまの韓国では文政権への反発も激しく、国内分裂の険しさは事実上の内戦状態といえるほどだ。文政権は北朝鮮との合意を自国の三権分立や憲法の規定よりも上部に据えている。だから三権分立も代議制民主主義もいまの韓国では正常には機能していない。
 ・文大統領の支持率はそれでも40%台から下がらないが、それは文政権全面支持の「言論労組」が各主要メディアの個別労組を動かして、報道や世論調査を操作しているためだ。実際には文政権を積極、消極に支持する人は韓国民全体の3分の1以下だろう。

 以上のように洪氏は韓国内部の保守派の立場から文在寅大統領への強烈な非難を浴びせるのだった。日本側としては韓国に対しては単に二国間だけでなく、世界貿易機関(WTO)のような多国間の場でも折衝し、論争を展開することも必要となってきた。こうした展開では韓国側でも文政権をこれだけ非難する政治勢力が確実に存在することを知っておくことも有益だろう。
(令和元年7月30日「JBpress」より転載)