澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -404-
中国共産党第19期4中全会での人事

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 中国共産党は、約2年近くも重要会議である「4中全会」を開催できなかった。それは、習近平主席が(1)中国経済の悪化、(2)激化する「米中貿易戦争」、(3)収束しない香港問題、等で「反習近平派」に猛攻撃を受けるからである。同会議では、(4)人事問題も重要テーマとなるだろう。
 今回は、(1)中国経済の悪化と(4)人事問題を取り上げてみたい。
 昨2018年12月、中国人民大学教授の向松祚が、同年の中国経済成長は良くて1.67%、別の資料を使うとマイナス成長だと喝破した。
 今年(2019年)10月18日、中国政府は第3四半期(7月~9月)のGDP成長率は6.0%だと発表している。それに対し、向松祚は、次のように指摘した。
 まず、今年5月から9月にかけての全国の財政收入は、一貫してマイナス成長である。
 次に、企業だが、その利潤は急激に減っているか、または赤字となっている。
 そして、人民の收入も急速には増えず、政府の個人所得税収入も、今年の前四半期(4月~6月)と比べて30%近くも下がっている。
 こんな状態で、GDP6%伸長というのは、明らかに成長率を高く見積もっているのではないか。
 向松祚は、以上のように説明した。極めて妥当な推論ではないだろうか。
 話は横道にそれるが、ドイツはEU内で経済的に1人勝ちの様相を帯びていた。よく知られているように、ドイツは中国と密接な経済関係にある。
 ドイツ経済は、昨2018年第3四半期に、マイナス0.1%を記録した。更に、今年第2四半期には、やはりマイナス0.1%を記録している。
 ドイツの経済の低迷は、様々な原因が考えられるが、おそらく中国経済の落ち込みと深い関係があるかもしれない。
 閑話休題。かねてより、我々は、中国経済の悪化は(必ずしも「米中貿易戦争」だけではなく)「混合所有制」に起因すると主張してきた。
 基本的に、習近平政権は国有企業救済のため、民間企業との合併を行っている。これでは、民間企業のトップはやる気を失うだろう。元来、民間だった企業が「親方日の丸」ならぬ「親方五星紅旗」となる。「親方五星紅旗」企業では、自由な発想が生まれないし、合理的な経営ができないだろう。また、企業内で、合理化へのインセンティブが働かなくなる。
 仮に「親方五星紅旗」企業が赤字になっても、地方政府がそれを補填してくれる。地方政府がその赤字を補填できなければ、最終的に中央政府が補填するだろう。
 ちなみに、中央政府の財政赤字は、国有企業や地方政府の債務を併せれば、300%~350%もあると言われる。
 ところで、「4中全会」の人事では、「習近平人脈」である重慶市トップ、陳敏爾が重用される可能性がある(ただし、その前提として、習近平主席自身が、現在の地位を保つ必要があるだろう)。
 今年10月15日、陳敏爾は韓正(政治局常務委員)と共に、シンガポールを訪問した。
 陳敏爾は、同国の副総理、王瑞杰(Heng Swee Keat)と中国・シンガポール2国間協力合同委員会(JCBC)第15回会議の共同開催を担った。
 当日、中国とシンガポールは、アップグレードされた2ヵ国間自由貿易協定の正式発効を宣言している。その夜、王瑞杰は、陳敏爾が催した晩餐会に出席した。
 実は、58歳の王瑞杰は“第4代”を自称している。
 シンガポールは、建国以来、李光耀(リー・クワンユー)、呉作棟(ゴー・チョクトン)、李顕龍(リー・シェンロン=李光耀の息子)の3人の総理を輩出した。そして、王瑞杰は、第4番目の次期総理と目されている。
 王瑞杰(58歳)と陳敏爾(59歳)は、ほぼ同じ世代なので、その緊密な交流は見逃せないだろう。
 かつて、中国では胡春華と孫政才が「第6世代」のホープと見なされていた。けれども、2017年7月、孫政才は、突然、失脚した。
 「共青団」系の胡春華(国務院副総理)は、未だに何とか生き残っている。だが、胡春華は、昨年8月から中国大陸で流行り出した「アフリカ豚コレラ」(ASF)と格闘している。ASFは単なる「豚コレラ」と異なり、豚の致死率ほぼ100%で、未だワクチンがない。
 胡春華は、この対応を任されているようだが、ASF収束への道のりは余りにも遠い。スペインではASFの収束に35年かかっている。したがって、現時点は、胡春華が中国共産党のトップになれる公算は小さいかもしれない。
 だからと言って、陳敏爾がトップへの階段を駆け上がれる保証もないだろう。後ろ盾となっている習主席の影響力次第ではないか。