澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -405-
香港の海に浮んだ15歳少女全裸死体

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 一部のメディアがすでに伝えているように、今年(2019年)9月22日、香港九龍油塘魔鬼山(Devil's Peak)沿岸に、全裸の少女の遺体が浮かんだ。香港の専門学校、知専設計学院(HKDI)に通う15歳の陳彦霖である。
 同19日午後2時15分頃、陳彦霖は地下鉄の「美孚」駅で友人と別れ、その10分後、今から帰宅すると友人にメールを送った。その後、彼女は失踪し、家族・友人は彼女と連絡が取れなくなった。陳彦霖は友人らと近くバーベキューをしようと約束していたという。
 同21日、家族が警察に陳彦霖の行方不明届けを出した(なぜか、当日夜、警察官の一団が油塘付近に現れている)。彼女の遺体が発見されたのは、その翌日であった。
 10月11日、香港警察は、陳彦霖が失踪した夜、監視カメラで彼女が海浜公園へ向かっている姿が確認されたと発表した。
 けれども、陳彦霖の遺体には外傷がなく、性的被害に遭った痕跡もない。警察は、死因を特定化できないが、事件性はないとして自殺と断定した(ちなみに、警察発表の前日、10月10日、陳彦霖は荼毘に付されている)。
 ただし、家族や友人が陳彦霖の遺体を見ていないので、警察以外、外傷があったのかどうかわからない。不思議な事に、事件後、陳彦霖の母親と叔父も失踪している。
 同月17日、何某と名乗る女性が無線テレビ(TVB News)に出演した。そして、何某は陳彦霖の母親で、生前、娘は精神的に病んでいたので自殺したと語っている。
 最近、SNSで陳彦霖と写っていた“本当の母親”は髪が短い。ところが、何某は髪が長かった(何某がカツラやウィッグをつけていた可能性がないとは言えない)。おそらく、香港警察は、何某に陳彦霖の“偽の母親”を演じさせたのだろう。
 実は、陳彦霖は水泳が得意だった。学校の水泳大会にも出場している。友人の証言によれば、5メートルの高さから水中に飛び込んでも、向こう岸へ泳いで行けるスイマーだったという。そういう少女が海に飛び込んで、自殺する事は考えづらい。
 他方、普通、人が自殺する際、全裸で自害するだろうか。例えば、入浴中、突然、自決を思い立ち、カミソリで手首を切った場合、全裸自殺はあり得る。しかし、そのような特殊な場合以外、まず全裸で自害する事はあり得ないだろう。自殺志願者は、服を着たまま命を断つのではないか。
 仮に、陳彦霖が精神病であっても、全裸で海に投身自殺する可能性はゼロに近いだろう(ごくまれに、着ていた服が全部海で流される事はあるかもしれない)。
 アジアでも優秀なはずの香港警察が、そのような杜撰な捜査で、陳彦霖が自殺したと決めつけている。
 実は、これまで、陳彦霖は、しばしば「逃亡犯条例改正」反対運動(「反送中」運動)に参加していたという。
 今年6月、香港で「反送中」運動が起きてから、何人もの自殺者が出ている。初め、彼らの多くが、遺書を残して自殺した。
 ところが、香港ではある時期から、急に自殺者が増えている。もしかすると、香港警察による他殺の公算もある。
 陳彦霖のケースも遺書がない。したがって、彼女が自害したと決めつけるには、やや無理があるのではないか。
 学校や警察は、監視カメラで陳彦霖の行動を調べたという。ところが、10月14日午後4時、学友らが事件当日(9月19日)のビデオを見た限りでは、かなり編集が施されていた。
 陳彦霖が失踪後、エレベーターに乗っている姿が、防犯カメラの映像に残されていた。陳彦霖の友人達は、おそらく彼女と共にエレベーターに乗った怪しい人物こそが、陳彦霖を襲った真犯人ではないかと疑っている。
 ひょっとすると、その映像中、犯人が陳彦霖を襲った部分はカットされているのかもしれない。
 更に、10月16日、警察は、監視カメラで撮った陳彦霖が学校へ戻って、裸足で歩く姿を公表した。だが、彼女に似た女子が陳彦霖を演じていたのである。報道された写真で見る限り、明らかに顔や肩幅が違う別人であった。警察による過剰な演出ではないか。
 陳彦霖が殺害されたと仮定すると、一体、誰が彼女を殺したのか。香港警察が、彼女を襲った公算が大きい。警察がデモ参加者を1人、また1人と眠らせているのかもしれない。これは、まさに台湾で行われていた国民党による「白色テロ」(1947年の「2・28事件」以降、80年代前半まで)と同じ手口である。
 もし、そうだとしたら、誰が直接、陳彦霖を毒牙にかけたのか。
 真っ先に考えられるのは、香港警察に依頼された香港マフィア「三合会」(「14K」等のマフィアの連合体)だろう。他には、中国国家安全部あたりが陳彦霖を殺傷した可能性も排除できない。