澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -407-
中国の総債務

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2019年)11月11日、中国の「独身の日」、ネット通販最大手のアリババのセールが過去最高を記録した、と日本メディアはこぞって報じた。これは、同国の消費が未だ旺盛である事を世界にアピールする中国共産党の“策略”だろう。日本メディアはそれに踊らされている観がある。
 その6日前、同月5日『博訊』に掲載された蔡慎坤の「誰が中国の借金を返済する能力があるか?」という論文は刮目に値しよう。ここでは、同論文の概略を述べたい。
 中国では、この10年間で、2012年にだけ、1.12兆元(約17.5兆円)の黒字が出た。胡錦濤主席-温家宝首相コンビは政権末期だったので、財政出動を控えたのである。
 だが、習近平政権になると、その誕生と同時に、財政赤字が一気に拡大した。2015年までに2兆元(約31.2兆円)を超え、昨2018年には4兆元(約62.4兆円)を突破している。
 国債の発行量は2016年に3兆元(約46.8兆円)近くに上昇し、2018年には3.5兆元(約54.6兆円)を超えた。
 他方、2016年には地方債の発行を開始したが、毎年4兆元(約62.4兆円)以上にのぼる。膨大な財政赤字が膨らむ一方、巨額の債券を保有する。
 実は、近年、金融界は驚くべき中国の債務状況を伝えていた。
 現在、累積した外債はすでに1.97兆米ドル(約213兆円)に達した。国有企業の債務も130兆元(約2028兆円)を超えている。国債を含む中国の総債務はすでに500兆元 (約7800兆円) 余りに達した(筆者注:同国の“総債務”は、中央政府・地方政府・国有企業・個人の4債務に分類できる。普通、その4者すべてを指す。ただし、時には、中央政府が負うべき前3者だけを指す場合もある)。
 同国の総債務500兆元(約70兆ドル)は、米国のそれの3倍以上であり、世界第2の経済体は世界一の債務国となった。
 中国の債務はオーストラリア、米国、ドイツ3国の債務合計よりも多い。通常、途上国の債務は先進国より少ないが、中国は違う。不動産開発や地方政府の借金、急速に拡大する「シャドー・バンキング」等のため、わずか10年で中国は、最少負債国から最大負債国へと転落した。
 最も懸念されているのは、急速に増大した負債中、多くの債務が返済不能に陥った点である。一部の地方では、盲目的に投資されたプロジェクトに対し、利息が支払われないばかりでなく、元金さえ返済するのが難しい。
 多くの中国人は、巨額の債務に対し、自分とは関係がないと感じている。だが、当局の統計によれば、今年上半期、全国の省・市の財政負債は天文学的な数字にのぼった。上海を除いて、ほとんどすべてが重い負債を負う。
 数年前、国家金融発展実験室理事長の李揚は、北京の幹部と地方政府に対し、債務総額はすでに168.48兆元(約2628.3兆円)まで達していて、全社会のレバレッジ比率(負債率)は249%だと穏やかに注意を喚起した。
 李揚の分析は、実情を過小評価している。CICCインターナショナル董事長を退任した朱雲来は半公開の場で、次のように喝破した。
 2017年末の中国の債務規模は600兆元(約9360兆円)に達し、一人当たり40万元(約624万円)の負債を抱えているという。債務は毎年20%以上のスピードで増加し、GDP 6%の伸びをはるかに上回る。
 債務規模は昨2018年に720兆元(約1京1232兆円)に達し、今年は860兆元(約1京3416兆円)に達する。年利6%ならば、年間の利息は40兆元(約624兆円)から50兆元(約780兆円)以上に達し、少なくともGDPの半分以上となる。
 他方、中国国家外貨管理局によると、2019年8月末時点の外貨準備高は3兆1072億米ドル(約335.58兆円)で、対外債務残高は1兆9132億米ドル(約206.63兆円)である。
 外貨準備高の3兆1000億米ドルから対外債務の1兆9100億米ドルを差し引くと、残りの外貨は、1兆2000億米ドル(約129.6兆円)に過ぎない。
 その保有外貨は、少なくとも8000億米ドル(約86.4兆円)が外資系企業の投資と利益である。万が一、外国資本が大量に撤退すれば、中国には外貨準備があまり残らない計算になる。
 以上が概略である。
 もし、蔡慎坤の主張が正しいとすれば、中国の総債務はすでに500兆元 (約7800兆円) に達する。仮に、中国当局が発表している昨2018年のGDPが90.03兆元(約1404.5兆円)だとしよう(ただし、この数字には疑問符が付く)。すると、総債務がGDPの555%となる。昨年の中国のGDPが80兆元(約1248兆円)しかなかったと仮定すれば、総債務がGDPの625%となるだろう。
 一方、中国当局が自負する世界一の外貨準備高も、せいぜい4000億米ドル(43.2兆円)程度しかない。これでは、今年10月4日、韓国銀行(中央銀行)が発表した9月末の外貨準備高、4033億2000万ドル(約43兆5586億円)とほとんど変わらないではないだろうか。
 これが、破綻の危機に瀕した中国経済の実態なのである。