澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -410-
香港区議会選挙で圧勝した「民主派」

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

  今年(2019年)11月24日(日)、香港区議会選挙が行われた(投票時間は朝7時30分から22時30分まで)。今後、香港の行方を占う重要な選挙として、世界から注目を浴びた。なお、同選挙は、小選挙区制で452議席が争われている(無投票選出議員<新界郷事委員会主席>の27議席を加えると全部で479議席)。
 今回の区議会選挙有権者(7年以上香港に住む18歳以上)数は約413.3万人で、前回と比べ43.9万人も増加した。そして、投票者数は約294.4万人で、投票率は71.2%と驚異的な数字となった。前回時(2015年)より24.2ポイントも上昇している。
 4年前の投票率は、その前年(2014年)に起きた「雨傘革命」の影響を受けたせいか、47.0%と初めて40%を超えた。だが、今回は、それを遥かに超えた高投票率となっている(1997年7月の香港返還後、立法会選挙では、2016年の投票率58.3%が“記録的”と言われた。今回は、それを12.9ポイントも上回っている)。
 有権者が香港の未来に強い懸念を抱いたためだろう。さながら、「住民投票」の様相を帯びていた。
 既報の通り、今回、「民主派」が388議席と地滑り的に大勝し、一方、「親中派」は62議席にとどまった(「中間派」は7議席)。「民主派」は無投票選出議員らを除いても81.0%の議席を獲得している。
 ちなみに、前回は(無投票選出議員27議席を加えた458議席中)「民主派」が124議席、「親中派」が327議席(「中間派」は7議席)だった。
 今回、1096人が正式に立候補(被選挙権は10年以上香港に住む21歳以上)している。以前の区議会選挙では、立候補者が1人しかいないため、無投票で当選するケースが見られた。だが、今度の選挙では、それはまったく無く、「民主派」vs.「親中派」の戦いとなった。
 さて、この選挙結果を受けて、今後、何が変わるのだろうか。
 第1に、香港は18区域(香港島4区、九龍5区、新界9区)に分かれているが、「民主派」は17区域の議会で過半数を獲得した。そのため、議会の正副議長は「民主派」から選出される。
 第2に、今なお、1200人「選挙委員会」が行政長官を選出している。その中で、117人は区議会議員が担う。以前、その区議会議員は「親中派」が占めていたが、今後は反対に「民主派」が占めるようになる。
 現在、「選挙委員会」には、「民主派」が約325人存在する。そこに、「民主派」の区議会議員117人が加われば、全体の3分の1以上が「民主派」で占められる。当然、「選挙委員会」も多少変わって行く公算があるのではないか。
 第3に、立法会では区議会議員に1議席与えられている(他の区議会議員枠の5議席は選挙で選出)。今まで、その1議席は「親中派」に割り与えられたが、これからは「民主派」に与えられる。立法会は70議席と少ないので、この1議席の持つウエイトは決して小さくないだろう。
 ところで、来日中の王毅外相は、「香港が中国の一部であるという事実は不変だ。香港を混乱させる試みも、香港の繁栄と安定を損なうたくらみも、すべて成功することはない」と香港の「民主派」や米国をはじめとする国際社会を牽制した。
 おそらく、中国共産党の“本音”としては心中穏やかではなく、予定通り区議会選挙を実施した事に対し、地団駄踏んでいるに違いない。
 周知の如く、今年6月、香港では、「逃亡犯条例」改正案をめぐり、同改正案反対運動(「反送中」運動)が起きた。
 その後、香港警察(中国政府)とデモ隊の間で「内戦」状態に陥っている。選挙直前、香港中文大学と香港理工大学での攻防戦は、凄まじかった。香港警察が、主なデモ隊の拠点となっていたこの2大学を武力制圧したのである(未だに理工大学には学生の一部が立てこもっているという)。
 そのため、一時、区議会選挙の延期が懸念された。だが、無事に、区議会選挙が行われている。
 「逃亡犯条例」改正をめぐり、香港政府(バックには中国政府)がデモ隊に対し、武力鎮圧も辞さなかった。今度の選挙結果は、それに対する有権者の反発が強かったと見るべきだろう。香港市民の民意は、明らかに行政長官や立法会での「民主的選挙」の導入にあるのではないか。
 しかし、中国共産党は、「民主派」の行政長官が誕生したり、立法会で「民主派」が多数を占めたりする事を過度に恐れている。中国政府が香港をコントロールしにくい状態に陥るからだろう。
 けれども、結局、2047年には、香港の「1国2制度」が終わる以上、中国共産党はそれほど焦る必要はなかった。
 それにもかかわらず、習近平政権が慌てて香港の「1国2制度」を「1国1制度」に変えようとしているのは、ひょっとして、同政権自体がその終焉に近づいているからではないだろうか。