澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -160-
再び不動産バブル景気に沸く中国

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2016年)、中国では1線級と呼ばれる北京・上海・深圳はもとより、2線級都市(青島市、廈門市、西安市、寧波市、長沙市など)でも、不動産バブル景気に沸いている。半年で50%も値上がりした都市もある。
 今年9月までに、北京では1000万元(約1億5000万円)のマンションが4000戸近く売買契約されたという。
 実は、昨(15)年末、中国共産党は、中央経済工作会議で不動産の在庫調整のため、新しい施策を打ち出した。不動産を取得する際、(1)頭金を下げる、(2)不動産取得税を下げる、(3)不動産営業税を下げる等である。
 思い起こせば、昨年、上海の株式市場は大暴落し、約9000万人投資家中、多くの人々が大損したことは記憶に新しい。
 昨春頃から、北京政府は中国経済の低迷を打開しようとして、『人民日報』や新華社等を使い、株価は上がると投資家を煽った。そのため、投資家は政府の言う事を信じて、株に投資した。
 しかし、周知の通り、昨年6月、上海総合指数は5100ポイント台から急落した。そして、今年1月末から3月初旬にかけて、その約半分の2600ポイント台まで落ち込む結果となっている(現在、同指数は3000ポイント前後で推移)。
 そこで、一般投資家(主に、中間層)は、今度、また不動産へ投資するようになった。よく知られているように、中国全土は「ゴーストタウン」(鬼城)が100ヶ所以上も存在する。ある試算によれば、すでに34億人も住めるマンション等が建設されているという。
 それにもかかわらず、北京政府は景気回復のため、今後もマンション等の建設を継続するのだろうか。
 中国では、2000年以降、特殊出生率が(日本よりも低い)1.3人まで減少し、「少子高齢化」社会へ向かっている。例えば、1982年には、一家族の平均が4.43人だったが、昨(2015)年には3.1人まで減り、独居老人が増加している。
 だが、今年元旦から施行された「2人っ子」政策に効果が表れるのは、相当時間がかかるに違いない。
 さて、いわゆる「中国版公的歩合」は、昨年10月に、1〜5年モノ貸出金利が、4.75%まで下がった。1990年以来、最低である。習近平政権は、もっと「中国版公的歩合」を下げて、市中にマネーを流すことはできないのだろうか。中国は、真剣に景気の底入れを考えねばならない局面に来ている。
 ただし、おそらく政府や中央銀行がいくら市場にマネーを流しても、景気はすぐには良くならないだろう。中国は依然、「過剰投資」・「過剰生産」が解消されないからである。
 目下、中国社会では、“デフレマインド”が蔓延している。未だに在庫調整が遅れている企業は、いくら低金利であっても設備投資をできそうにもない。
 例えば、工業部門では、鉄鉱石生産量が2014年9月以降、(2016年4月を除き)今年8月まで、前年同月比でマイナスが続いている。同様に、中国エネルギーの主役である石炭生産量が2014年4月以降、今年8月まで、マイナスが継続中である。一方、消費者は、贅沢品(宝石等)を買い控えている。
 今の中国では、たとえ銀行へ預金しても、1年モノ定期預金で3.0%から3.3%の利息、5年モノでも4.75%から5.225%程度の利息しかつかない(銀行によって利息が若干違う)。
 一般投資家は、株は懲りただろうし、ハイリスク・ハイリターンの「理財商品」にも手が出しにくい。1番儲かりそうなのが不動産だろう。そこで、彼らは、低金利のマネーを国内の不動産へ投資する傾向があるのではないか。
 ところで、現時点では、(本来、経済担当の李克強首相ではなく)習近平主席が経済政策を主導している。習主席は「新常態」(デマンドサイド経済学)を掲げ、国有企業さえも市場原理に任せ、中国経済のハードランディングを許容するつもりらしい。
 だが、その場合、一部の国有企業(「ゾンビ企業」)はバタバタ倒産する恐れがある。そして、失業者が街にあふれるだろう。また、解雇された国有企業の従業員が賃金の未払い等で敢然と立ち上がるに違いない。
 実は、近年、「群体性事件」(集団的騒乱事件)が、毎年30%で増加しているという。最近『非新聞』が公表した約3万件の「群体性事件」は、統計が間違っている公算が大きい。本当は一桁違っていて、約30万件ではないかと推測される。