澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -161-
北の核開発を支援した中国中央対外連絡部

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年9月26日(日本時間では27日未明)、米国政府は、北朝鮮の銀行と取引がある中国企業(丹東鴻祥実業発展有限公司)とその董事長(理事長)の馬暁紅(女性)ら4人の米国内資産を凍結すると発表した。同時に、オバマ政権は同社との取引を禁じる制裁を行うという。
 現在、中国国内では、遼寧鴻祥実業集団の1つ、丹東鴻祥実業発展有限公司の責任者、馬暁紅が「重大な経済犯罪」があったとして、中国当局から取り調べを受けている。同公司が、北朝鮮へ核開発物質の一部(酸化アルミニウム等)を輸出したという容疑であった。
 これは、ワシントンが、これ以上、北朝鮮に核開発を進められたくないという要望に対し、北京が応えたものである。
 実は、馬暁紅が、何者かに注目されていた。単なる一介の女性実業家が、北朝鮮と核関連物質を含む貿易を行うというのは、あまりに不自然だった。
 当然、馬暁紅のバックには、ある組織や多大な影響力を持つ党最高幹部の存在が疑われていた。一説には、馬暁紅と北朝鮮の張成沢(金正恩党委員長の叔母の夫。2013年12月、金委員長に粛清されている)との間には、太い“パイプ”があったと言われる。
どうやら米オバマ政権は、馬暁紅を中国共産党中央対外連絡部(以下、中連部)に所属する特務だとほぼ断定した模様である。
 一体、中連部とは何か。中国共産党中央の直属機関で、実に謎の多い部署である。
 一般に、中国外交部(外務省に相当)は正式な国家同士の関係を取り扱う(ただし、外交部の権限は弱い)。ところが、中連部は、相手国の与党だけでなく、野党や別組織との関係をも模索する。中連部は、相手国の懐に飛び込んで工作する。
 表舞台では、外交部が活躍するが、裏では中連部が暗躍している。後者は、インテリジェンス機関(秘密情報機関)としても機能していると考えられる。
 また、中連部は、一部外交部に似て、世界の地域をいくつにも分け、調査研究している。
 例えば、第1局(アジア)、第2局(アジア)、第3局(西アジア・北アフリカ)、第4局(アフリカ)、第5局(ラテンアメリカ)、第6局(東欧・中央アジア)、第7局(アメリカ大陸)、第8局(ヨーロッパ)となっている。他にも別局が存在する。
 昨年(2015年)11月、長年務めてきた王家瑞(吉林省出身)中連部部長が、宋涛(江蘇省出身だが、長らく福建省で働き、その後、外交官になった)へ代わった。
 習近平主席は、北朝鮮と関係が深い王家瑞を中連部部長から政治協商会議副主席へ転出させ、自分の派閥に近い宋涛を同部長に据えたのである。同様に、今年7月、習主席は中連部の大幅な人事異動を行った。
 もともと中連部は、江沢民系(「上海閥」)の曽紅慶(元国家副主席)、周永康(無期懲役)、張徳江(現、政治局常務委員)、劉雲山(同)らの影響力が強かった。そこで、習近平主席は中連部にメスを入れる事によって、「上海閥」の北朝鮮への影響力を弱めようした。
 実際、周永康は、金正日・金正恩父子と関係が深かった。他方、周永康の部下に、李峰(遼寧省人民代表常務委員会副主任、遼寧省政法委員会書記)がいた。だが、今年9月18日、李峰は突然、失職している。
 よく知られているように、今年5月6日から9日まで、北朝鮮は朝鮮労働党第7回大会を行った。その後、同月16日、北京の中国駐在朝鮮大使館での「第7回朝鮮労働党大会開催祝賀行事」が催されている。
 しかし、その際、北朝鮮は、すでに中連部部長を辞めていた王家瑞だけを招いた。金正恩党委員長が「上海閥」に近い王家瑞だけを特別扱いにしたのである。
 ところで、中国核工業集団公司(1999年に創立された中央企業。前身は中国第2機械工業部・核工業部と中国核工業総公司)の人間が明らかにした話によれば、北朝鮮の核開発技術員は、ずっと中国国内で訓練を受けているという。核の最新技術は、中国由来のモノと考えられる。
 また、中国(旧瀋陽軍区=現、北部戦区)は北朝鮮の核実験の原料と技術、先端技術員をコントロールしているばかりか、一部の北の実験を中国の核基地で秘密裏に完成させたという。
 もし、これらが事実ならば、まさに中朝関係は複雑怪奇と言わざるを得ない。