澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -163-
香港での中国共産党の党内闘争

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2016年)、『人民日報』上で、習近平主席(「太子党」)と李克強首相(「共青団」)が経済政策をめぐり、中国共産党の党内闘争を繰り広げたことは記憶に新しい。
 ところが、今度は、香港という意外な場所で党内バトルが起きている。
 香港の『成報』という「親中派」の新聞が、この夏以降、共産党のナンバー3、「上海閥」の張徳江・全国人民代表大会(以下、全人代)常務委員会委員長への攻撃を開始した。
 張徳江は、全人代委員長以外に、中国共産党中央港澳工作協調小組(以下、港澳工作小組)のトップ(曽慶紅、習近平に続く、3人目)という重責を担っている。
 その下部組織には、国務院港澳事務弁公室(以下、港澳弁公室)が存在する。同弁公室は、中国と香港間、中国とマカオ間の経済・文化・教育関係だけではなく、港澳特別行政区の行政長官および政府と連携して工作を行う。
 さて、今年8月30日、『成報』は、厳しく梁振英を批判し、同時に、中央人民政府駐香港特区連絡弁公室(以下、中連弁)も非難した(当然、『成報』は、習近平政権の意向を受けている)。
 翌9月12日『成報』は、梁振英、張暁明、それに姜在忠(「親中派」新聞である『大公報』と『文匯報』の社長)らを「乱港(香港を混乱させた)四人組」と決めつけた。そして、第4番目の人物はもうすぐ現れるだろうと書いている。
 翌13日、『成報』は、裏社会が梁振英を支持する主要な勢力となっていると指摘した。
 さらに、同月23日、『成報』は中連弁が香港の世論を壟断していると非難した。同時に、香港が混乱しているのは、中連弁主任の張暁明と香港行政長官の梁振英、そして、その背後にいる前港澳弁公室主任、廖暉が彼らを庇護しているからだと指摘している。
 かつて、2003年から2007年まで「上海閥」の曽慶紅が港澳工作小組のトップだった。その下の港澳弁公室には、廖暉(廖承志の息子で、香港返還時の1997年から2010年まで主任を務める)がいた。廖暉のバックには、曽慶紅が控えていたのである。
 翌10月1日、中華人民共和国成立76周年に、香港『成報』は全面広告で、香港行政長官の梁振英と中連弁主任の張暁明を揶揄している。
 さらに、同3日、香港『成報』は、“腐敗”した張徳江が全人代をダメにしたと指弾した。これは、特に、先月(9月)、2012年の遼寧省人民代表選挙で不正があったとされ、多くの議員が当選無効のため失職したことを指す。
 周知のように、「文化大革命」(1966年〜76年)の際、毛沢東主席の妻、江青らが「四人組」と名付けられた。毛主席が死去した後、彼らは失脚している。
 最近では、胡錦濤主席や習近平主席を打倒しようとしたとして、周永康・薄熙来 ・令計劃・徐才厚(死去)らが「新四人組」と呼ばれている。彼らは胡主席や習主席に対し、クーデターを起こそうとしたという。
 「乱港四人組」の場合、筆頭が張徳江となる。次が、中連弁主任、張暁明である。そして、香港行政長官の梁振英、さらには、香港大公文匯伝媒集団理事長、姜在忠と続く。
 では、なぜ張徳江が香港で叩かれ始めたのか。
 来年秋、中国共産党第19回全国代表大会(19大)が開催され、その後の5年間の人事が決定する。実は、今月(10月)下旬の6中全会で19大の人事がほぼ固まると言われる。
 現在、その直前の微妙な時期である。よって、習近平政権は「上海閥」の張徳江を叩こうとしたに違いない。
 ところで、2014年8月31日、全人代常務委員会は、2017年の行政長官選挙での立候補者を2〜3人に絞り込む(「泛民主派」の候補者を出さない)ようにした。
 今まで、「選挙委員会」(1200人。「親中派」が多数を占める)から150人の推薦で立候補できた。その場合、「泛民主派」候補の出馬が可能だった。1人1票の選挙では、「泛民主派」候補が、行政長官に当選することも夢ではなかったのである。
 しかし、中国共産党は、突然、「指名委員会」(「選挙委員会」からの横滑り)の推薦人数を150人から600人へと急に引き上げたのである。「泛民主派」候補を当選させない姑息な手段だった。
 この強硬手段を採ったのが、張徳江だったと言われる。この中国共産党の政策こそが、香港「雨傘革命」を引き起こした原因だった。