澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -166-
「某テレビ局の台湾経済記事の誤り」

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 我が国の某テレビ局は、NEWS24として、ネットで記事を配信している。
 最近、気になる記事があったので紹介したい。それは、2016年10月28日(15:39)の「“中国関係悪化”経済にも影響 台湾のいま」である。
 その中で、台湾が「中国との関係が悪化していて、その影響は経済にも出ている」と指摘している。
 しかし、実態は、全く逆である。台湾行政院が今年(2016年)10月28日に発表した「国情統計通報」(第202号)を見れば一目瞭然だろう(中国のGDP等の数字と違って、台湾のそれらは信頼に足る)。
 我々がたびたび主張しているように、「中台統一派」の馬英九前政権が「中国一辺倒」政策を採ったため、中国経済の低迷に伴い、台湾経済が悪化した。
 台湾の対中輸出依存度は、総額にして輸出全体の26%(世界第2位)、GDPに占める割合が16%(世界第1位)と非常に高い(米『Forbs』誌<2015年11月26日>)。
 だから、中国の景気が停滞する中、台湾が中国から離れれば離れるほど、その経済は良くなるはずである。
 「国情統計通報」(以下、「統計」)によれば、台湾のGDPは、昨2015年第1四半期、4.04%成長だったが、第2四半期は0.57%へと急落した。更に、同年第3四半期は‐0.80%、翌第4四半期は‐0.89%とマイナス成長となった。今年第1四半期も‐0.29%だったので、3季連続のマイナスである。
 ところが、今年1月16日、民進党がW選挙(総統選と立法委員選)を制し、ようやく台湾経済に明るさが戻ってきた。
 そして、今年の第2四半期のGDPは0.70%と久々にプラスに転じた。5月20日、蔡英文政権が誕生後、第3四半期は2.06%へと上昇している。
 おそらく、蔡総統が馬政権の「中国一辺倒政策」を捨て、リスク分散型の「新南向政策」(日米はもとより、東南アジア・南アジアとも経済関係強化を目指す)を採用したためではないか。
 実は、「統計」には、(物価変動を除く)輸出成長率も記されている。
 それを見ると、昨(2015)年第1四半期は3.4%の伸びだった。だが、同年第2四半期は‐2.7%、第3四半期は‐3.6%、同第4四半期は‐4.2%、今年第1四半期は‐4.4%と4季連続のマイナスと落ち込んだ。
 けれども、蔡総統が登場して以来、第2四半期は0.7%、第3四半期は3.3%と再び成長を始めている。
 同様に、「統計」には、工業生産指数の成長率も記載されている。昨(2015)年第1四半期は5.4%の伸びだった。しかし、同年第2四半期は、‐1.2%、第3四半期は‐4.7%、第4四半期は‐5.7%と右肩下がりとなっている。
 今年に入っても、第1四半期は‐4.4%、第2四半期も‐0.2%と振るわなかった。しかし、第3四半期は4.1%となり、明らかに景気の回復兆候が見られる。
 つまり、GDP・輸出成長率・工業生産指数という主要な指標は、全て台湾の景気が良くなっているという実態を示している。
 さて、なぜ某テレビ局NEWS24は、現実と反対の記事を配信したのか。多分台湾の一部旅行業界(中国から台湾へ観光客がやって来ないので不景気)だけしか見ていなかったからに違いない。
 例えば、我が国に中国人観光客が来ないからと言って、果たして日本経済全体が落ち込むだろうか。一部の観光業と中国人の「爆買い」を期待していた業界以外、中国人旅行客が来なくても、殆ど影響はない。
 現時点で、我が国では、まだ観光が日本経済の基幹産業とは言えないだろう(GDPの2.3%)。また、日本の観光産業が必ずしも中国人観光客だけに依存しているわけでもない。
 その点は、台湾もあまり変わらない(2014年でGDPの4.65%)。中国以外の国の観光客が台湾を旅行すれば、その埋め合せが可能ではないか。
 ついでに、もう一つ指摘しておきたい。某テレビ局NEWS24は「最新の調査では(蔡総統の―引用者)支持率が下がり始めている」と言う。某局が、どの世論調査を見たのか不明だが、ここでは、以下の世論調査結果を示しておこう。
 今年10月23日、シンクタンクの「台湾世代智庫」が蔡英文政権などに対する世論調査の結果を発表した(『フォーカス台湾』「蔡英文総統への満足度50.6% 前回調査よりも上昇/台湾」【政治】2016/10/24 17:31)。
 「それによると蔡総統への満足度(広義の支持率―引用者)は50.6%となり、先月行われた前回調査よりも1.6ポイント上昇している」という。
 某テレビ局NEWS24が、台湾の事情をよく知らずにこのような記事を配信したならば仕方ない(できれば、もっと正確を期して欲しい)。だが、“故意に”誤った記事を流しているとすれば、大問題である。