朴槿恵大統領の弾劾案可決
―「儒教」社会からの脱却が韓国を救う―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 この人だけは別かと思っていた朴槿恵韓国大統領が国会で弾劾案を可決された。すったもんだの末、新大統領が選出されるのだろうが、“新生韓国”のイメージが湧いてこない。誰が大統領になっても同じ、或いは新大統領も選出できずにこの国は滅びるのではないかという予感さえする。
 公私混同、閨閥の経済独占、とてつもない貧富の格差、これらの原因を突き詰めていくとたった一つ。「儒教」の存在に突き当たる。韓国は明に李朝の設立を認められてから500年、国教を儒教と定めてきた。儒教は孔子を始祖とした宗教だが、日本にも伝播して江戸時代にはその一派である朱子学が栄えた。儒教による最高の価値は家族である。家族では父親が絶対的存在であって、次に兄、弟と続く。女子は男子に仕えるもので人格などは認められていない。この儒教の風習は永く日本にも残って、武士階級を律していた。私の幼少の頃でも残っていて、鹿児島県では男子優先の風潮が激しかった。祖父の家などに行くと父は「いつまでこんな風習を残しておくのか」と怒っていたから、明治生まれの大学出などは既に“因習”と見ていたのだろう。
 縁故に関係なく試験に通れば大学に行ける。大学を出れば会社や役所は出自に関係なく採用する。日本人には当然のことだが、韓国にはこの公平さが未だに存在していない。
 財閥経営が一族の間で廻されているのも、儒教あってこその因習だ。親は閨閥外の青年に経営を譲った方が会社が儲かるなどとは考えない。歴代大統領が汚職で捕まるのは、権力や富を得た者は身内に分け与えるのが当然と思っているからだ。これは中国も同じで、科挙を通った者は親族を2代、3代にわたって食べさせられるほどの財を得たという。
 日本には神道もあり仏教もあったから、儒教の弊害を克服できた。韓国が近代国家に踏み出すチャンスは2回あった。日本の併合時と戦後の復興時であったが、韓国は儒教の弊害を除去せず、李朝の時代に逆戻りしてしまった。たまに“正論”を吐く学者や政治家がいるが“国賊”というレッテルを貼って言論を封じてしまう。「大統領が緊急時に7時間居なかった」と書いた記者、それも外国人を、捕まえた一事を見ても、この国は自由と民主主義を追求する資格はない。
 儒教では中国が中心で、次に韓国、日本はその弟の地位に位置付けられる。従ってその弟が兄の国を併合したことは許し難いことなのだ。朴大統領が就任してすぐ、米、欧など日本の友好国を次々に訪れて「告げ口外交」を展開した。この外交上の振る舞いは異例のもので訪問先では奇異に見られただけだった。「弟の国の日本がこんな酷いことをして、謝らないのですよ」という背景に兄と弟の関係があるとは儒教を知らない国では理解困難だろう。何度も謝れとか金を払えと甘ったれているのも、兄の立場から言っているのだ。韓国は“儒教”離れしない限り、元の中華圏に戻るだけだろう。韓国のために敢えて言う。
(平成28年12月14日付静岡新聞『論壇』より転載)