澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -203-
「228事件」70周年への国共の対応

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2017年)2月28日、台湾では「228事件」70周年を迎える。
 1947年2月27日、台北で闇タバコを売っていた寡婦が、官憲に摘発され殴打された。周りにいた台湾人は、それに対し官憲に抗議した。その際、官憲が発砲し、台湾人1人が亡くなっている。
 翌日、多くの台湾人が陳儀のいる行政長官公署とタバコ専売局(台北分局)へ押しかけた。国民党は台湾人を機関銃で掃射した。間もなく台湾全島で台湾人が蜂起したが、蔣介石は台湾へ精鋭部隊を送り込み、国民党は台湾人を弾圧している。
 事件後、2,3万人とも言われる台湾人エリートが、国民党により闇から闇へ葬られた。所謂、(政権側が行う)「白色テロ」である。
 そのため、大部分の台湾人は政治と距離を置き、ビジネスに専念せざるを得なかった(1989年、中国で起きた「6・4天安門事件」後、中国人が政治には関与せず、ビジネスに専念したのと似ている)。
 因みに、国民党と中国共産党は出自が同じ兄弟党である。従って、言動が酷似している。この点は、強調しても、し過ぎることはない。
 最近、国民党系の「228事件」研究者、武之章は民進党が蔣介石を同事件の首謀者と見做しているが、それは間違いだと言い出した。
 武之章は、蔣介石が陳儀長官に送った、台湾人に対し「報復をしてはならない。もし命令に逆らうならば、犯罪とする」という歴史的文書を開示した。その点は、評価できる。
 けれども、たとえ歴史的文書が存在したとしても、蔣介石率いる国民党が台湾人を虐殺した事実は覆い隠せるものではない。
 また、武之章は、戦後、国民党が台湾へやって来て、当時、それなりの対価を支払い「党産」(国民党の財産)を獲得したと主張している。つまり「党産」は“合法”だという。だから、武之章は「党産」に関して、国民党は卑屈になる必要はないとエールを送る。
 では、実際はどうだったか。国民党は、日本統治時代、日本人と台湾人の血と汗で築いた工場や建物等の資産を簒奪した。
 そこで、現在の民進党政府は、国民党の「党産」を何とか国に返還させようとしている。普通に考えれば、民進党政権は“当然の事”をやろうとしているに過ぎない。
 さて、一方、今年2月8日、中国国務院台湾事務弁公室の安峰山報道官が、「228事件」70周年の記念イベントを行うと発表した。
 実際、中国共産党は「228事件」とは何の関係もない。その頃、国民党と共産党は「国共内戦」の真っ只中だった。
 敢えてこじつければ、台湾共産党(日本共産党台湾民族支部)の謝雪紅が同事件に関与し、その後、中国大陸に渡って中国共産党へ入党しているくらいではないか。
 実は、中国共産党は、「228事件」を、台湾人が専制に立ち向かったと高く評価している。だったら、同党は、1989年の「民主化運動」も高く評価しなければならない。そして、当時の「民主化運動」を「動乱」と決めつけた評価を、即刻、訂正すべきではないか。
 振り返れば、2015年9月、北京で行われた「抗日戦勝70周年」記念式典に関して、世界中の人々が違和感を覚えたに違いない。
 日中戦争時、中国共産党は、まともに日本軍とは戦っていないからである。日本軍と正面きって戦ったのは、基本的に国民党軍である。
 それでいて、共産党政権が「抗日戦勝70周年」記念イベントを開催するとは噴飯ものであった。
 余談だが、記念イベントに合わせて、製作された中国の抗日映画『開羅(カイロ)宣言』には、何故か毛沢東が登場する。公開されたポスターにはスターリン、チャーチル、ルーズベルトと並んで毛沢東の姿が真ん中にあった。
 改めて言うまでもなく、1943年11月、ルーズベルト米大統領、チャーチル英首相、蔣介石中華民国総統の3者の間で「カイロ会談」が行われた(但し「カイロ宣言」は、草案のみ存在し、世界中、どこにも正文は見当たらない)。
 当時、毛沢東は延安にいたはずである。ところが、監督の温徳光はその史実を無視して、映画を製作したのである。
 同様に、今回、中国共産党が自らとは無関係の「228事件」の記念イベントを行うというのは腑に落ちない。世界から失笑を買うだけではないか。
 今年2月23日、中国大陸では8つの民主党派の1つ「台盟」(=台湾民主自治同盟。1947年、香港で創立された。起源は謝雪紅まで遡る)が「228事件」に関するシンポジウムを開催したという。