澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -215-
第1回トランプ・習近平会談

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2017年)4月6日・7日に、第1回トランプ・習近平会談がフロリダで行われる。世界第1と第2の経済大国トップ同士の会談なので、世界中から注目を浴びている。
 ここで重要なのは、両国トップの相性だろう。オバマ前大統領と習近平主席の相性は決して良いとは言えなかった。前者はビジネスライクであり、後者は他人の言う事に耳を貸さないタイプだった。
 トランプ大統領と習近平主席のウマが合えば、今後、米中が手を携えて世界をリードして行くだろう。だが、今までの2人の行動パターンを見ると、両者のケミストリーが合うとは考えにくい(ただ、予断は禁物だろう)。
 さて、今回の米中首脳会談の中身だが、(1)北朝鮮の核・ミサイル開発問題(2)韓国のTHAAD配備問題(3)中国軍の東シナ海・南シナ海への“膨張”問題(4)「一つの中国」問題(5)米国の対中貿易赤字問題などが話し合われる予定だという。
 一つずつ、ごく簡単に検討してみよう。

(1)北朝鮮の核・ミサイル開発問題
 トランプ政権は、北朝鮮の核が搭載されたICBM(大陸間弾道弾)が米東海岸(ワシントン・ニューヨーク)に届くのを非常に懸念している。
 そこで、米国は、金正恩委員長の「斬首作戦」(金委員長だけを殺害する)、或いは、北朝鮮への「先制攻撃」を考慮している節がある。
 可能ならば、米国は韓国大統領選挙が行われる今年5月9日までに、北朝鮮への作戦・攻撃を実行するかもしれない。北朝鮮寄りの韓国大統領が当選すると、作戦・攻撃がしづらくなるからである。
 但し、米国の金正恩「斬首作戦」は、失敗したからと言って、必ずしも大問題とはならない。けれども、米国の北朝鮮への「先制攻撃」が失敗すると、我が国を含む東アジアは一挙に緊張するだろう。「第2次朝鮮戦争」が勃発しても不思議ではない。
 また、たとえ米国の北朝鮮「先制攻撃」が成功しても、その後、北朝鮮に米国が望むような政権が誕生するとは限らないだろう。

(2)韓国のTHAAD配備問題
 中国側は、韓国にTHAADが配備されると困るはずである(一説では、そのTHAADのレーダーは1800キロをカバーするという)。他方、米国側は、できれば5月9日までに韓国内にTHAADを配備したいだろう。現在、習近平政権は、掌返しした韓国のロッテ製品の不買運動を仕掛けただけでなく、中国人旅行客を韓国へ送らないようにして、事実上、韓国に対する経済制裁を行っている。

(3)中国軍の東シナ海・南シナ海への“膨張”問題
 習近平主席は「中国の夢」を掲げ、「中国的世界秩序」(ジョン・フェアバンク)の構築を目指しているように見える。
 そこで、今後も、中国軍による東シナ海(尖閣諸島に食指を伸ばしたり、我が国の防空識別圏・領海侵犯したりする等)での日本への“挑発”、南シナ海での人工島造成等の“膨張”は止むことはないだろう。
 既に、トランプ政権は習政権の中国ではなく、ロシアのプーチン政権を選択している(1972年のニクソン大統領訪中に始まる「米中接近」の“逆パターン”)。そして、米国はロシアと一緒に「イスラム国」の殲滅を模索している。従って、米国の次のターゲットは中国ではないだろうか。
 南シナ海に関しては、ロバート・エルドリッヂ氏が指摘した“アイデア”のように、日米豪の3国の海軍が3チーム(実戦・訓練・メンテナンス)作り、「防災」という建前でローテーションを組んで、南シナ海をパトロールするのは妙手かもしれない(将来的には、インド海軍もこれに合流する)。

(4)「一つの中国」問題
 周知の如く、トランプが大統領に当選後、蔡英文台湾総統と電話会談を行った。また、トランプ次期大統領は「一つの中国」政策の見直しを示唆した。だが、結局トランプ大統領は「一つの中国」政策を尊重している。米国といえども「一つの中国」政策の変更は容易ではないだろう。

(5)米国の対中貿易赤字問題
 現実的に、トランプ政権が対中関税障壁を作るのは難しい。トランプ大統領としては習近平主席に米国への輸出攻勢を自主的に控えてもらいたいだろう。しかし、現在、中国は景気が悪化しているので、同国の国有企業はダンピングをしても、或いは、北京政府が補助金を出しても、輸出を増大させたいに違いない。そのため、米中の貿易摩擦は容易に解決できないかもしれない。

 仮に、この第1回トランプ・習近平会談が決裂した場合、将来、米中関係が更に悪化することも十分あり得るだろう。その時には、今回の首脳会談(どちらかの首脳が辞めない限り)が最初で最後になる恐れもある。