澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -236-
2017年台北ユニバーシアード

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 2年毎に開かれる夏季ユニバーシアードが、今年(2017年)8月19日から30日まで台湾で開催されている。
 台湾で世界的スポーツ大会が開かれたこと自体、画期的だった。何故なら、中国共産党によって台湾の“国際生存空間”が狭められているからである。
 昨年12月、台湾はアフリカのサントメ・プリンシペ、今年6月にはパナマと断交した(中国が両国と国交を結んだので、台湾は断交せざるを得なかった)。そのため、台湾との外交関係を持つ国々は20ヵ国にまで減っている。そこで、台湾は自国の存在を世界にアピールするためには、国際大会を開く必要があるだろう。
 実は、2017年の夏季ユニバーシアードには、台北とブラジリアの2都市が立候補していた。結局、2011年11月、ユニバーシアードを主催する国際大学スポーツ連盟(FISO)は、台北に決定している。
 当時の台湾は、国民党の馬英九政権下にあり、台北市長は郝龍斌(郝柏村元行政院長の息子)だった。だから、北京政府はユニバーシアード開催に立候補した台北市に対し、横槍を入れなかったのではないか。
 8月19日、台北ユニバーシアード開会式当日、年金制度改革に反対する公務員らが、会場の外で騒ぎ、各国の選手団が会場入り出来なかった。そのため、各国・各地域の旗手だけが、それぞれの国旗等を掲げ、フィールド内を行進するという、奇妙な状況となっている。
 さて、台湾では、連日、中華隊(台湾チーム)の活躍で、台湾住民は熱狂したと言っても過言ではない。
 とりわけ、短距離走の花形、男子100メートル決勝で台湾の楊俊瀚選手が優勝するという“奇跡”が起きたのである。
 決勝には9秒台のタイムを持つ選手(米国と南アフリカ)が2人いた。他方、
 楊俊瀚選手は、持ちタイムがファイナリスト8選手中、下から2番目だったのである。ところが、結果は、楊俊瀚が10秒22で優勝している。台湾の選手としては、初めての快挙だった。
 8月27日現在、各国の金メダル獲得数は、第1位が日本(30個)、第2位が韓国(27個)、そして、第3位が台湾(17個)である。
 第4位は、ロシア(16個)、第5位が米国(14個)、第6位が北朝鮮(12個)と続き、第7位がウクライナ(10個)、第8位がイタリア(9個)、第9位がドイツ(7個)、第10位がポーランド(6個)という順となっている。
 今年は、ロンドンでの世界陸上競技選手権大会(8月4日~13日)・パリでのレスリング世界選手権(8月21日〜26日)・ブタペストでの世界柔道選手権大会(8月28日〜9月3日)等、世界選手権が目白押しだった。
 そのため、台北ユニバーシアードは、各国とも参加メンバーが若干手薄になった感は否めないだろう。
 しかし、今回、スポーツ大国、中国は、金メダル数トップ10にも入っていない。8月27日現在、中国チームのメダル獲得数は9個(金メダルが3個、銀メダルが4個、銅メダルが2個)という散々な成績である。
 大会直前(2017年5月)、男女のバスケット、男女サッカー、男女バレーボール、男女の水球、野球等の9種類にエントリーしなかった。中国チームは台北ユニバーシアードをおろそかにしている。
 改めて言うまでもないが、中国共産党は何でも“政治化”する傾向がある。今度のユニバーシアードでも、習近平政権はスポーツを“政治化”したのではないか。
 ところで、国際スポーツ大会では、台湾の国名が中華民国(ROC)、或いは台湾ではない。
 英語では、チャイニーズ・タイペイ(Chinese Taipei)と表記させ、漢字だと普通「中華台北」(北京側は「中国台北」を主張)となる。
 ここで、近年行われたユニバーシアードの開催国と開催都市を並べてみよう。例えば、2011年の「中国深圳」、2015年「韓国光州」は極めて自然である。
 だが、台湾に関しては、不思議な事態が起こる。開催国が中華民国でも「台湾」ではなく「中華台北」である。そこで、開催国が「中華台北」で、開催都市が「台北」なので「中華台北台北」となるだろう。面妖である。
 最後にユニバーシアードについてほんの少し触れておこう。現在、夏季と冬季は、オリンピック・イヤーを挟むように、2年毎に開催される。
 参加資格は17歳以上、28歳未満。大学・大学院に在学中か、もしくは、大会の前年に卒業・修了した学生が参加できる。もちろんオリンピック同様、プロも参加可能である。
 ユニバーシアードという名称は、夏季は1959年イタリア・トリノ(冬季は1960年、フランス・シャモニー)から始まった。それ以前は、第2次世界大戦を挟んで、「国際大学スポーツ週間」という名称で開催された歴史がある。