澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -248-
米国の台湾への核配備問題

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2017年)9月20日、在米の中国研究家、陳破空による辛辣な論評(自由アジア放送<RFA>)が興味深いので紹介したい(若干長いので、一部割愛する)。
 同年9月11日、韓国メディア『朝鮮日報』が次のような話を伝えた。
 米国は、台湾に戦術核を配備する事により、中国が北朝鮮に対し圧力をかけ、核実験やミサイル発射を放棄させようとする意図があるという(但し、これが事実か否かは不明=引用者)。当日夜、台湾当局は明確に否定した。
 翌12日、中国共産党の機関紙『環球時報』は「米国が台湾に戦術核を配備するのか?台湾は否定し、韓国メディアを平手打ちにして、無責任だ!」という批評を掲載している。
 このようなタイトルを付けるのは、中国共産党が既に神経質になっている表れである。同党は、国民に対し韓国メディアは根拠のない事を報道するという印象を創り出そうとし、自らの気持ちを静めようとしている。
 台湾が核兵器配備を導入するかどうか、当然、台湾政府や台湾軍が軽々しく認めるはずはない。
 同時に、元CIA長官がホワイトハウスに対し、台湾に核兵器を配備するよう要請したという報道がある。また、米共和党がその件に関する提案の根回しをしているともいう。
 中国駐米大使の崔天凱は、「我々は、何人が如何なる口実を使おうとも台湾に核兵器を配備する事を決して許さないし、断固反対する」とのコメントを速やかに発表した。
 この駐米大使の言葉には、中国当局の動揺、狼狽している様子が伺える。同大使はまた、「中国は北朝鮮を核保有国として認めない」という一句を持ち出し、アメリカ人を欺こうとしている。
 実際、北朝鮮は既に核兵器を保有している。だが、表面上、中国共産党はその否定できない事実を決して認めようとはしない。将来、台湾が核兵器を保有した際、中国共産党は「中国は台湾が核保有国だと認める事はできない」という一句を言えるのかどうか。
 近頃、一部の中国人民解放軍の上層部や御用学者らが、もしも米国が軍事オプションで北朝鮮の核問題の解決を図るなら、中国は台湾を武力攻撃可能だと言い放っている。
 中国のロジックでは、米国が軍事オプションを取らず、金正恩政権を転覆しなければ、中国共産党は台湾を放っておき、武力侵攻しない。仮に、米国が北朝鮮へ出兵し、金正恩政権を倒せば、中国共産党はその報復をする。即ち、中国は台湾へ侵攻する事で、米国を牽制し報復する。
 中国共産党にすれば、北朝鮮の金王朝は台湾よりも重要である。北の独裁政権を防衛できれば、どんな海峡両岸の「統一の大事業」、どんな「民族の大義」、どんな「愛国主義」も全て忘れ去られても構わない。
 何故なら、同党は平壌の独裁政権を守る事によって、北京の独裁政権を死守できるからである。
 平壌のような、常に世界文明に対し挑発する不良少年を失えば、北京のようなヤクザは丸裸になり防壁を失う。文明の波が直接中国東北部へ押し寄せ、共産党政権を加速度的に揺らして倒すかも知れない。
 中国ネットユーザーは、中国共産党のロジックを次のように解釈する。
 「即ち、あなたが私の近所を攻撃したら、私は自分の兄弟を滅ぼす。あなたが北朝鮮を攻撃すれば、私は台湾同胞を殺す。」
 中国共産党は一貫して「台湾人民は同胞である」、「血を分けた兄弟である」と喧伝してきた。どのように自説の辻褄を合わせるのだろうか。
 さて、もし台湾が本当に核兵器を保有したら、自国を自衛するだけでなく、中国大陸への反撃も可能となる。仮に、中国共産党が台湾に脅威を与えれば、台湾は核を先制発射し、中南海や中国共産党幹部の所在地を直接攻撃する。
 そう考えれば、台湾が核兵器を保有する事は、台湾人民の福音であるし、中国大陸人民の福音でもある。核兵器の力で機先を制して、台湾軍が西進し、やがて外部の人々は、中国人民が、中華民国軍を大歓迎するのを見るだろう。何故か?それは13億の民は長い間、共産党統治下で苦労しているので、台湾軍に解放されるのを待ち焦がれている。
 『環球時報』は、「台湾の外から見れば、台湾が核兵器技術を発展させるのは、おそらく難しくはない」という事実を虚心に認めざるを得ない。
 台湾はかつて核兵器の研究開発をしたことがあるが、米国にリークされた後、開発を阻止された。但し、今日の情勢は昔とは異なる。もし米国が台湾の核開発を阻止しなければ、更にその上、米国が適度に核開発を奨励すれば、台湾の核保有は素早く実現するだろう。