安倍首相の中・韓無視から外交交流へ

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会長・政治評論家 屋山太郎

 安倍晋三首相がこの3年間、韓国・中国に対して「条件付きなら会談しない」と突っ張って両国との外交交流は無きに等しくなった。自民党の古手や財界から「何とかならないのか」という注文もあったが、安倍氏は日米外交を強化し、豪州、インドを巻き込む“中国包囲網”作りに邁進した。同盟とか集団安全保障を嫌う新聞も含めた国内の左翼が、安倍氏の一辺倒に常にケチをつけてきた。しかし国民感情が嫌中派90%、嫌韓派80%にもなったのでは安倍外交に文句をつけられない。 
 新安保法成立後、10%も下がった支持率が一気に戻ったのは、安倍首相の米上下両院議員総会での演説、8月の安倍談話で米国が日本の発想に理解を示したからだろう。たまたまオバマ氏の中国とのG2 対話路線も壊れた。その証拠に南シナ海の岩礁が軍事基地化するかも知れない恐れが出現した。 
 安倍外交が安定をもたらしたのは、自由と民主主義、基本的人権を享有する側に立っているからだ。安倍氏は年末になって、日韓関係を修復する気になったようだが、韓国が日本の主張に納得したからではない。韓国の無理難題にいつまでも付き合っていられない。「この馬鹿騒ぎは自分の時代でケリをつけよう」と決断したからだ。 
 1965年に日韓基本条約と日韓請求権協定が締結された。請求権協定というのは互いの貸し借りはチャラにする。その際、日本側は韓国に5億ドルの経済協力資金を支払うというものである。当時、慰安婦問題は全く議論されなかったが、それは一つの“商行為”として公認のものだったからだ。強制や束縛、奴隷状態などがあって、弁償が当然という状態があったとしても、請求権協定が結ばれた以上、その賠償は自国政府に請求するべきものなのである。 
 にも拘らず韓国政府は「交渉時に慰安婦問題は語られなかった」と主張し、父親が軍属として勤務した際の「未払い賃金を払え」と言い出した。韓国の裁判所までそれを認めた。 
 日韓請求権協定は「日韓両国およびその国民(法人を含む)の財産、権利、利益、両国およびその国民の間の請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決された」と書いてある。 
 この条文を読みさえすれば、未払い賃金や慰安婦について請求権が発生することはないはずだ。日本人は水に流すとか諦めるという潔さを徳としているが、中華圏にはそのような精神はない。自己犠牲の精神の欠落は、真っ先に逃げたセウォル号の船長が象徴している。中国にしても「国土法」を勝手に作って「尖閣諸島は中国固有の領土だ」と言い募る有様だ。 
 国際的取り決めを無視すればトラブルが発生することは明らかだ。しかし中・韓両国はそのような国際法や国の約束など委細構わず、憲法裁判所が政治の側に立っている国なのだ。安倍氏の中・韓無視外交のおかげで、国民は中・韓両国の本質、性質をより深く知ったのではないか。