澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -270-
「習近平思想」が聖書に取って代わる中国

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 『博訊』(2017年12月17付)の「北京市蔡奇書記の“3つの火”はどのように炎上したか?」によれば、中国史上、何回か「本当の話」ができる時代があったという(因みに、蔡奇による“3つの火”とは、(1)11・18北京大火事をきっかけにした外来「低端人口」<下層出身>の排除。(2)北京市の看板2万7000の撤去。(3)北京の大気汚染を防止するため、石炭ストーブ使用をやめさせて、ガスへの転換を奨励)。
 第1は、春秋戦国時代、諸子百家による百花斉放・百家争鳴の時期である。
 第2は、清末民初で、欧米からの文化が中国に流入した時期(「西方東漸」)である。
 第3は、「新中国」建国初期である。当時は「本当の話」ができた。しかし、その後、毛沢東による「反右派闘争」で、55万人もの知識人が「右派」として打倒されている。
 第4は、1980年代、胡耀邦・趙紫陽時代である。
 周知の如く、2012年に習近平が登場して以来、再び中国人は口をつぐんだ。「本当の話」ができるという事は、善政の基礎だろう。
 習近平の父親、習仲勲は、1984年、「異なる意見を保護する法や制度ができないものか」という問題提議をした。ところが、息子の習近平は、父親の良い所を受け継がず、毛沢東の悪い面を継承している。
 『ラジオ・フリー・アジア(RFA)』(2017年12月17日付)は「『習近平思想』の鎮座で、キリストが道を譲る。大陸の高校ではクリスマスが禁じられる」という記事が公表された。時系列に並べてみよう。
 第1に、2014年、温州市教育局は同市全校に対し、「クリスマス活動」を禁止する通達を出している。
 第2に、昨2016年、多くの中国の教育部門は、「クリスマス活動」禁止令を通達した。
 第3に、今年9月24日、厦門大学博士課程の大学院生が4人の同大学生にキリスト教関係のチラシを配った。それを学生に密告され、大学院生は厳重警告処分を受けている。
 第4に、同12月11月、「共青団」が瀋陽薬科大学で欧米の宗教・文化の侵食を食い止めるため、「クリスマス活動」を禁じる通達を出した。
 第5に、最近、天津財経大学では、李鴻忠(天津市トップ)によるキリスト教関連の調査が終了したばかりである。その調査対象は、香港・マカオ、台湾からやって来た学生、留学生、それに外国人教師ら、全校の教師・学生に及んだ。
 この李鴻忠という人物は湖北省長時代、2010年の両会(全人代と政治協商会議)の際、記者にセンセティブな事件を追及された。だが、李は回答を拒否したばかりか、記者のボイスレコーダーを持ち去っている。また、李鴻忠は、かつて何度も「習核心」を擁護する姿勢を見せた。
 第6に、西北大学現代学院では、クリスマスイブに学生に対し「中華伝統文化」を宣伝する映画を見せるという。
 しかし、多くの有名高校学生は当局が「クリスマス活動」を禁止し、キリスト教布教を制限する事に関して不満を抱いている。
 現在、米国に滞在している周鋒鎖(かつて1989年の「民主化要求運動」のリーダー)が喝破したように、中国共産党は、中国の高校に在籍する若者に対しキリスト教への信仰を厳しく統制し、学生に「習近平思想」を植え付けるための障害を取り除こうとしている。周によれば、習近平崇拝推進とキリスト教攻撃は、同時平行的に行われている。中国共産党が高校生を「防火壁」内で成長させるのは、洗脳を最も貫徹しやすいからである。
 米国華人の牧師、劉貽(りゅうい)は、RFAとのインタビューに答え、習近平時代になってから、キリスト教への弾圧が更にひどくなったと述べた。また劉は「19大」の習近平報告で、「習近平思想」が聖書に取って代わろうとしていると指摘している。そして、習近平が登場して以来、宗教統制が一段と厳しくなり、キリスト教信者への洗脳だけでなく、大学生への洗脳も行われていると指弾した。
 米ジョージア大学留学生の古懿(こい)はやはりRFAとのインタビューで大学等が「習近平思想」センターを争うように創設しているのは、憂鬱すべき事態であり、絶対にやめるべきだと説いている。
 また、古は、(1)クリスマスを祝わせない、(2)布教活動をした学生を処罰する、(3)学生の信仰を調査するのは、聖書が「習近平語録」の領域を占めるのを阻止するためだと指摘している。
 更に、古は、かかる事件は、中国共産党が信仰の自由を侵害し、独裁政権が学校を一元的思想でコントロールしている表れであると語った。