「日米豪印による『インド太平洋戦略』のススメ」
―護憲で日本の安全は守れない―

.

会長・政治評論家 屋山太郎

 参院だけ残った民進党がそのまま存続するか、衣替えするか、他党に合流の道を選ぶか迷いに迷っている。同党内には19年夏の参院選までに「党勢を立て直そう」という意見もあるが、その見込みは極めて薄い。というのも10月に行われた衆院選では民進党から別れ出た立憲民主党が野党第1党に躍り出た。選挙後、1ヵ月後の調査でその時比例区で立憲民主党に投票した人の8割が、次の参院選でも立憲民主党に投票すると回答している。更に民進党に投票すると回答したのは全体の3%にとどまった。
 比例区で希望の党に投票した人のうち、次の参院選で希望の党に入れると回答したのは4割にとどまった。
 民意の動向がこのまま続くとすると「希望」には最早、期待を持ち得ないことは確かだろう。最大の失敗は希望結成に当たって、小池都知事が護憲派を「排除する」と明言した後に「取り消す」と言ってしまったことだ。民進党の前代表の前原誠司氏は小池氏を担いで、人心一新を図る決意を固めた。護憲派排除は前原氏の意中とも一致した。民進党が抱える最大の問題は今も憲法問題だ。憲法についての考え方が統一されていないために、前身の民主党政権は瓦解した。「排除」という用語は政治用語として相応しくないという論もあったが、「護憲派の方には遠慮して貰います」という言い方でも良かった。民進党は「護憲派」と「改憲派」が混在しているが故に国民に一体感を示せなかったのである。
 ここで、何を勘違いしたのか小池氏は「排除」を取り消して護憲派も改憲派も取り込んで「モリ・カケ」問題に後戻りしてしまう。小池氏は政治の争点についての認識がなく、ただの思い付きだけで、都知事にも転身し、自分を引き立てるべく新しい政党もこしらえた。ただの浅知恵に気付いた議員や大衆が、一挙に「希望」離れしたのは当然だ。護憲派の枝野幸男氏は「立憲民主党」という明解な護憲の旗を立てた。これで護憲派の主柱ができたと言えるが、北朝鮮の核脅威をめぐる国際情勢の中で「護憲」という小さな国内的発想で国は果たして安全なのか。
 枝野氏がかねて主張しているのは「集団的自衛権を認めた新安保法は違憲である」というものだ。この新安保法を取り消して無効にした後、憲法改正問題にとりかかろうという考え方である。この論法は憲法論議の手前に、まず壮大な障害物を置いたことに他ならない。加えて「現憲法では自衛隊を持てない」という主張を展開するとなると、かつての社会党の非武装論に後戻りする。
 目下の国際情勢は、日米中の正三角形外交が成り立たないこともはっきりさせた。日米豪印の4ヵ国の連携によって「インド太平洋戦略」を固め、膨張する中国を押さえるという日米共通の外交路線が形を現わしてきた。この外交戦略は自由と民主主義、資本主義市場経済という価値観を共有している。普遍的で崩れ難い強みがある。
(平成29年12月20日付静岡新聞『論壇』より転載)