「中華圏の儒教を会得している安倍首相」
―中韓の歪んだ言い分は受け入れられない―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 安倍首相は平昌での冬季五輪の開会式に出席する。当初、欠席すると見られていた安倍首相が、敢えて出席することにしたのは文大統領に①日韓合意の履行を強く求める ②北朝鮮への圧力をこれ以上弱めないよう直ちに米韓軍事演習を復活するよう求めるという。
 北朝鮮が核・ミサイル開発を着実に進められたのは米国のオバマ前大統領が「核兵器なき世界」を標榜して北への“圧力”を無くしてしまったからだ。しかし、いま国連安保理は北の核・ミサイル開発を抑え込むために兵糧攻めに近い決議を採択している。一方米国は「核戦略体制の見直し」(NPR)を発表した。これは相手側の攻撃が核でなくても、小型の戦術核で反撃するというものだ。
 日本の最重要課題は“北問題”と認識している時に、韓国は「日韓合意は納得できない。修正せよ」という。2015年に安倍・朴大統領で締結された慰安婦合意は「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」となっている。国家と国家の間で合意したものを「国民世論が許さないから」と蒸し返す国家がどこにあろうか。
 安倍首相も含めて政府首脳は、日韓合意は「1ミリも動かさない」と気迫を込めて言っている。動かせば「不可逆的」という字句を入れた意味も、米国が合意に賛同した意味も消し飛んでしまう。
 ところが二階俊博幹事長は「1ミリも動かさないと言ったら、そんな交渉に国の将来を任せられるか」と疑問を呈している。この考え方こそが、中国、南北朝鮮との付き合い方を間違える元になっていると言っていい。
 世界には8極の文明があるとハンチントン博士は言っているが、日本の常識は概ね世界では受け入れられている。合意は守らなくてはならない。世話になったら「ありがとう」という式の常識だが、この常識が全く通じないのが8極の一つ、中華圏だ。
 中華圏の道徳が歪んでしまった原因は彼らが固く信じている儒教のせいだ。儒教は宗教ではなく、長幼の序とか王と家臣の関係などを律した思想と言っていいだろう。
 儒教は社会の序列をふんわり律する日本の儒教とは似て非なるものだ。中国の儒教は自分が「中華」で北の民族は北狄、西は西戎、南は南蛮、東(日本)は東夷でいずれも野蛮人、蔑むべき民族だ。中国や韓国にとって、その東夷が序列を無視して「でかい顔をする」のは許せないのである。南京大虐殺や慰安婦問題で、日本に歴史戦争を仕掛けているのも自分を優位に見せるためだ。
 日本と中韓は平等の立場ではない。その下位の民族に「ありがとう」などと言えるかというのが中韓の立場だ。日本がインドに造った橋や空港には「日本の援助で建設された。ありがとう」というマークが付けられているが、北京の空港、地下鉄には何も書いていない。この中華圏との付き合い方を初めて会得したのは安倍氏だ。
(平成30年2月7日付静岡新聞『論壇』より転載)