「核実験場の爆破」、廃棄や凍結と見せかける北朝鮮がよくやる下手な芝居
―米国は、交渉の先延ばしや猿芝居に翻弄されず、今何をすべきか判断すべきだ―

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政策提言委員・軍事/情報戦略研究所長 西村金一

 北朝鮮は5月24日、豊渓里の核実験場の坑道の爆破を公開し、核の放棄を示す宣伝を始めた。今回、米・英・中・露・韓国のマスメディアは招待されたが、爆破を検証するための重要な役割を果たす国際原子力機関(IAEA)は招待されなかった。
 これらの爆破は、実験場や坑道部分の全てではないし、機械類の爆破も確認できていない。北朝鮮が、「これから核放棄へのプロセスを進み始めた」と、核兵器を放棄する第1歩のようだが、実際は見せかけのポーズであり、下手な芝居だと言える。

 今回の爆破は、数々の疑問も多いことから、私の視点で検証を行うとともに、過去にも、核・ミサイルの開発を凍結あるいは放棄する姿勢を示すことを宣言しながら、実は、陰で着々と開発を進めていた。以下それを紹介する。

今回の核実験場の爆破は、短期間で復帰できる
 北朝鮮国営通信は、豊渓里の核実験場を破壊したと公表している。豊渓里実験場は、東部・北部・西部・南部の4つの実験場がある(「図 北朝鮮の核実験場」参照)。
 東部の実験場は、過去に使えなくなってすでに閉鎖されている。北部は、6回目の実験で壊れている。西部と南部の実験場は、6回目の核実験では壊れず、使用できるものと考えられる。
 爆破の映像を見る限りでは、坑道は、入り口だけの爆破で、内部まで爆破されてはいない。その爆破の規模もかなり小さい。つまり、坑道の内部にコンクリートや鉄扉があれば、坑道内部は破壊されていないと見積もられる。また、核実験場の付帯施設である建物の爆破については、建物だけであり、内部に収められていた機器類を爆破した証拠は公開されていない。このことから、機器類は事前に取り外されていたと考えられる。米国の研究機関である38ノースの、「坑道の周辺の技術支援設備が撤去されたのが確認された。物資運搬用の車両が分解され、車両移動用のレールが取り外された形跡もあった」という情報も私の見解を裏付けている。
 今回の爆破状態であれば、半年から1年もあれば、実験再開が可能と判断すべきである。
 6回目の核実験の結果、豊渓里では、放射線が漏れているという情報がある。今回立ち会ったマスメディア関係者は、元山の空港に着いた際、北朝鮮側に「実験場は完全に安全で、必要ない」として放射線量を測る線量計が没収された。北朝鮮は、この地域で放射線が漏れていることを隠したかったのだろう。

過去に下手な芝居を打った2つの具体例を紹介する。
(1)ミサイル開発凍結の発言を行ったのは、実は物理的に実験ができなかったからだ。
 テポドン2弾道ミサイル開発時に、舞水端里(ムスダンリ)のミサイル発射実験場で、ロケット本体の燃焼実験中に、ミサイル発射台が、ロケットの本体の爆発により吹き飛んで、跡形もなく壊れた。この時、北朝鮮は、米朝ミサイル協議中、「ミサイル発射を凍結する、その期間を延長する」と発表した。実は、協議したからではなく、物理的に、発射台が跡形もなく壊れて実施できなくなったからなのだ。
 細部事情を説明すると、
 1998年にテポドン1号を発射して実験を成功させた。その後、テポドン2の開発を進めた。北朝鮮はテポドン1からテポドン2を開発するのに約10年の歳月を要した。この間、北朝鮮が行ったことは、
 テポドン1号発射成功翌年の1999年、「米朝協議継続間はミサイル発射せず」とのミサイル凍結を宣言した。
 以降、2000年「衛星打ち上げの一時中止措置は依然として有効」、「ミサイル協議継続間は長距離ミサイルを発射せず」、2001年「03年までミサイル発射凍結」とした。
 私は、北朝鮮が、発射実験には、相当の期間が必要だと見ていて、「その間、ミサイル発射を実施しない」と開発の凍結という時間稼ぎを世界に示したと見ている。
 2002年「発射モラトリアムは03年以降もさらに延長する」と述べた。北朝鮮は公式には、「六か国協議中は開発を凍結し、その期間を延長する」と述べた。しかし、実は、舞水端里(ムスダンリ)発射実験場でテポドン2の発射ロケットの燃焼実験の際に、大爆発を起こし、ロケットと発射台が壊れてしまったのだ。すぐに、爆発で吹き飛んだ物を撤去し、発射台の建設を開始した。その完成までにも、また時間がかかり、完成していない2004年には「発射実験のモラトリアムを再確認」などの発言を繰り返した。
 以上の期間、北朝鮮は、テポドン2ミサイルの開発と発射台の建設を継続していて、それらが完成し、発射実験準備が完了すると、2005年「ミサイル発射保留のいかなる拘束力も受けず」と発言し、それまでの凍結発言を撤回した。そして、2006年には、開発を進めていたテポドン2ミサイルを発射した。
 北朝鮮は、ミサイル開発を凍結するとわざわざ公表していたのは、実は、テポドン2の開発を進める時間がほしかったことと、発射台が壊れて物理的に発射できなかったからなのだ。

(2)核破棄の合意を守る姿勢を見せるために行ったことは、冷却塔を爆破しただけであった。
 2007年六か国協議で寧辺の黒鉛減速炉の稼働を一旦停止し、最終的には解体することを約束した。その結果、翌年の2008年に、北朝鮮が実行したのは、古くなった寧辺の原子炉の冷却塔(煙突部分)を爆破しただけであった。その後、米朝関係が悪化すれば、たちまち、新たに冷却塔を建設して、運転を再開した。現在も稼働させて爆縮型の核爆弾の材料となるプルトニウムを生産している。

北朝鮮が本気で核を放棄する意志があるのであれば、後戻りができない、核心的なことから始めるべきだ。
 北朝鮮は、段階的な非核化を主張している。本気で、核の廃棄を実施する意志を示すのであれば、ウラン濃縮施設や生産したプルトニウムを公開し、それらから破壊を行うべきである。破壊してもすぐに修復や代替え施設が建設できるなど、後戻りができる事項は後回しにすべきだ。そうすることによって、北朝鮮が、本気で核の放棄を進めていることが信用できる。
 北朝鮮が主張している段階的非核化や今回の爆破を見る限り、過去2回、世界を欺いてきた手順と全く同じだ。
 文在寅大統領や韓国特使は、「金委員長は率直に話をするし、誠意を感じた」と言っているが、北朝鮮の下手な芝居を何度も見ていると、金委員長のどこに誠意を感じているのか、全く理解できない。
 6月12日に予定されていた南北首脳会談が中止、一転、再開の話もある。今後もズルズルと米朝会談をするしないと交渉を先延ばしすること、さらに、北朝鮮の今回の下手な芝居に付き合っていると、どうなるのか。北朝鮮に核やミサイル開発のための時間を与えてしまうことになる。
 結果的に、北朝鮮に時間を与えれば与えるほど、北朝鮮が有利になるだけだ。
 米国は、そのことを考えて、今何をすべきか判断すべきだ。



出典:38Northの資料に西村金一が解説を付け加えたものである。