澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -296-
台湾の「国際生存空間」と統一地方選挙

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 2016年1月、蔡英文民進党主席が次期総統に当選して以来、中国共産党は、日夜、台湾の「国際生存空間」を狭めようと試みている。台湾と外交関係のある一部の国々が、北京によって切り崩され始めている。
 同年5月、蔡英文総統就任時には、台湾は22ヵ国と国交があった。だが、今年(2018年)5月30日現在、18ヵ国まで減っている。
 まず、2016年12月、台湾と国交のあったアフリカのサントメ・プリンシペが中国と国交を結んだ。
 次に、その半年後、昨年6月、台湾の中南米外交の拠点、パナマが中国と国交を樹立した。台湾は、パナマとは、中華民国建国以来、100年以上も国交があった。民進党政権としてはショックだったのではないか。
 そして、今年5月1日には、カリブ海のドミニカが、更に、同24日には西アフリカの島国、ブルキナファソが中国と国交を締結した。
 アフリカで台湾と外交関係を持つのは、アフリカ南部の(絶対君主制を敷く)スワジランドだけとなった。蔡英文総統は今年4月に同国を訪問し、建国50周年および国王ムスワティ3世の50歳誕生日を祝うセレモニーに出席している。その際、両国の関係強化を確認した。だが、スワジランドも、いつ台湾を切り捨てるかわからない。
 民進党政権は台湾の「国際的生存空間」が狭まり、危機感を抱いているに違いない。ただ、今の蔡政権は、陳水扁時代と違って、積極的にカネで外交関係を買う(国交を結ぶ)事をしていない。
 一方、台北は習近平政権に対し、歩み寄ろうという姿勢が見えない。現時点で、民進党政権は、中国共産党の崩壊(例えば、中国経済のハード・ランディングが起こった場合等)をただ待つより他に術はないだろう。
 北京が蔡政権に対し不満を抱いているのは、同政権が「92年コンセンサス」(国共が「一中各表」<両岸は「一つの中国」を堅持するが、その「一つの中国」については各々が定義する>を“口頭”で約束したという)の存在そのものを否定しているからである。
 因みに、「92年コンセンサス」に関しては、2000年4月、行政院大陸委員会主任の蘇起(外省人)が突然、言い出した。だが、中台間で正式な文書が残っていない“口約束”なので、その信憑性に欠ける。
 さて、今年11月24日、台湾では統一地方選挙が行われる。この選挙結果が、2020年の総統選挙に直結すると考えられる。特に、重要なのは、6直轄市長選挙(この制度となったのは、前回、2014年の選挙以来)である。
 台北市・新北市(かつての台北県)・桃園市(同、桃園県)・台中市(台中市と台中県が合併)・台南市(台南市と台南県が合併)・高雄市(高雄市と高雄県が合併)での市長選の勝敗を見れば、総統選挙のおおよその予測が可能だろう。6直轄市で台湾全体の約7割の人口を占めるからである。
 以前と現在では、市自体の大きさが異なるが、その相関関係は高い(2000年の総統選挙は、例外的に、民進党の陳水扁候補が“漁夫の利”で勝利したので、捨象する)。
 (1)2004年の総統選挙では、現職の陳水扁総統が連戦・宋楚瑜コンビを3万票足らずでかろうじて振り切った。前哨戦となった6県市長選挙で、民進党が3勝、国民党が3勝と拮抗していたのである。
 (2)2008年の総統選挙では、国民党の馬英九候補が、民進党の謝長廷候補を破った。前哨戦の6県市長選挙では、国民党が4勝、民進党が2勝という結果だった。
 (3)2012年の総統選挙では、現職の馬英九総統が民進党の蔡英文候補を退けた。前哨戦となった6県市長選挙では、やはり国民党が4勝、民進党が2勝だった。
 (4)前回、2016年の総統選挙では、民進党の蔡英文候補が国民党の朱立倫候補・親民党の宋楚瑜候補に勝利した。前哨戦の6直轄市長選挙では、民進党が4勝、国民党が1勝、民進党系無所属(柯文哲台北市長)が1勝となっている。
 これまでのパターンを見る限り、今年の6直轄市長選挙でも、民進党が4勝以上すれば、総統選挙で民進党候補(蔡英文総統ないしは頼清徳行政院長か)が勝利する公算は大きい。ただし、民進党3勝、国民党2勝、無所属1勝(柯市長)だと、情勢は微妙となる。ましてや、民進党2勝、国民党3勝、無所属1勝(同)の場合、民進党は苦戦を余儀なくされるだろう。
 仮に、柯文哲台北市長が今度の選挙で再選を果たし、その任期途中で次期総統選挙に出馬すると、一部の民進党票が柯市長に奪われる公算が大きい。その時、国民党候補(朱立倫か)が、“漁夫の利”で勝つ可能性を排除できないのではないか。