澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -298-
中国を「文化侵略」する日本のソフトパワー

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 最近、中国に「精神日本人」という一風変わった人達が現れた。昔の日本の軍服を着てコスプレする。彼らは日本や日本人が大好きなのだろう。できれば、日本人として生まれたかったのかもしれない。
 習近平政権は「精神日本人」の出現に驚いた様子である。だが、日本の軍服で身を包む「精神日本人」は、ごく少数の人々であり、中国当局にとって、取るに足りない存在である。
 実は、既に中国大陸では特に若者の間で、別の「精神日本人」が多数産み出されている。だが北京政府は、日本のソフトパワーが既に中国大陸を「文化侵略」している事を殆ど知らない。
 周知の如く、日本の誇るマンガ・アニメ・ゲームが中国大陸にも浸透している。
 例えば、日本のソフトパワーの1つとして、AKB48(秋元康のプロデュース)の姉妹グループ、中国で結成されたSNH48(エスエヌエイチ・フォーティエイト。上海を拠点に活動)だろう。
 2012年、活動開始したが、2016年に日中間で契約トラブルが発生し、その後、両者は絶縁状態となっている。かつてSNH48は、基本的にAKB48の日本語の曲を中国語でカバーしていた。これは、日本文化による中国への“間接的”「文化侵略」である。
 SNH48は若者の一部を「精神日本人」に変える役割を担った事実は否定できない。特筆すべきは、公開でメンバーの順位を決定する“総選挙”が実施された。基層レベル以外、中国共産党は未だまともな選挙を全く行っていない。北京は、SNH48が日本との関係が断ち切れ、胸を撫で下ろしたのではないか。
 目下、中国では、公開オーディションを勝ち抜いて組まれたユニットが活躍している。2015年に結成されたSING女団(Super Impassioned Net Generation)と名称のグループである(代表曲は『寄明月』。韓国のアイドルユニット、TWICE<韓国人5人、日本人3人、台湾人1人>のモノマネ)。
 さて、AKB48のシャドー・グループ、SNH48に続き、中国大陸を“直接的”「文化侵略」しているのは、日本のアーティスト、GARNiDELiA(ガルニデリア)ではないだろうか。
 ボーカルのMARiA(メイリア。作詞・衣装担当)とキーボードのtoku(作曲担当)の男女2人のデュオで、アニメソングを中心に活躍している。ただ、ダンスを踊る際には、別のメンバーとユニットを作る。
 まず、2016年、GARNiDELiAは花魁をイメージした『極楽浄土』をリリースした。ダンスはみうめ(振付担当)・MARiA・217(仮面ライアーにいな)の3人で舞う。衣装やステップが変わっていて、一度曲を聴くと、リズムがなかなか頭から離れない。
 この曲は、今年(2018年)6月5日現在、歌詞が23ヵ国語に翻訳されている。そして、3190万回以上も再生された。無論、中国語にも翻訳され、SNH48も中国語でカバーしている。
 次に、昨2017年、GARNiDELiAは『桃源恋歌』をリリースした。ダンスは『極楽浄土』同様、みうめ・MARiA・217がチャイナドレスで踊る。もともと曲が中国風であり、3人ともチャイナドレスを着ているため、中国テイストに溢れている。
 この曲は、同月5日現在、歌詞が16ヶ国語に翻訳された。そして1230万回以上、再生されている。一部の中国人ネットユーザーは、『極楽浄土』でハマり、今度は『桃源恋歌』で再び「中毒」になっているという。
 『桃源恋歌』こそ、ジャパニーズ・カルチャーによる中国大陸への「文化侵略」にうってつけの曲ではないか。実際、GNZ48(ジーエヌジー・フォーティエイト。広州が拠点)がこの曲を中国語でカバーしている。また、人気コスプレーヤー、咬人猫などがその曲で舞う。
 更に、GARNiDELiAは、今年『紅葉愛唄(くれは・いとしうた)』をリリースした。今度は再び和様テイストである。ダンスは、前2曲同様、みうめ・MARiA・217の3人で踊り、息もぴったり合っている。
 やはり、その歌詞は16ヵ国語に翻訳されている。同日現在、386万回以上、再生された。おそらく、近くまた中国語でカバーするアーティストが中国大陸でも現れるに違いない。
 このGARNiDELiA は、2012年5月、上海に初上陸を果たしている。その5年後、昨2017年7月には上海で、同年10月には北京・成都で公演を行った。今年4月には広州で公演している。更に、7月には再び上海で公演予定である。
 中国共産党は日本を否定する事(「反日」政策)で、生き長らえようと努めている。けれども、北京政府は、日本のソフトパワーが中国を「文化侵略」している事に殆ど気付いていない。極めて滑稽ではないか。