澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -308-
再開された中国共産党内の暗闘

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2018年)7月9日付『人民日報』(中国共産党機関紙)の第1面が奇妙だと話題になっている。習近平主席の文字と写真が全く掲載されていなかったからである。7月19日現在、同日以外、7月第1面は全て習主席礼賛のオンパレードだった。
 その2日後(同11日)の『人民日報』で、今度は、華国鋒批判が始まった。これは、毛沢東型個人崇拝を復活させた習近平主席への“あてつけ”ではないか。
 江沢民元主席、胡錦濤前主席、朱鎔基元首相等は「元老会」を形成する。元老達は、習近平主席の個人崇拝志向に対し、不満を持っていると伝えられる。
 「元老会」が、海航集団・王健会長のフランスでの不審死をめぐり、その真相究明に動き出したという。王岐山国家副主席には、海航集団を“私物化”している疑惑がある。
 仮に、王副主席が失脚すれば、習近平主席への打撃は計り知れない。「元老会」はこの事件を契機として、習主席に対し巻き返しを試みているのではないか。それが今月の『人民日報』の紙面に表出したと見るべきかもしれない。
 一方、今年7月4日、不動産会社に勤める董瑶琼という若い女性が、上海の海航ビルに貼ってあった習近平主席のポスターに、墨を塗るという事件が起きた。
 董瑶琼は、「共産党独裁に反対」を唱え、習主席を批判した。実に、大胆な行動である。ネットでは称賛された。だが、まなもく董は公安に捕まり、その後、行方不明になっている。
 さて、今の習近平政権は「自由化」・「民主化」に背を向けている。そこで、中国共産党による「支配の正当性」は、経済発展しかない。
 近年、中国の景気には大きな疑問符が付く。北京が発表する、信用に足らないGDPを議論しても、あまり意味がないだろう(中国当局が公表する投資・消費・貿易・発電量・貨物輸送量等の推移を見て“総合的に判断”した方が、より実態に近いと思われる)。
 最近、注目すべきは、人民元の下落ではないか(上海総合指数も気になるだろう)。
 2011年1月31日以来、2018年7月19日現在に至るまでの約7年半、人民元の対米ドル推移は、以下の通りである。
 2011年1月31日は、1元=6.600550米ドルだった。(人民元の為替推移に多少の“でこぼこ”は見られるが、)同日以降、ずっと元高に振れ、3年後の2014年1月31日、1元=6.035331米ドルで最高値となった。
 しかし、また3年後の2016年12月31日、1元=6.978823米ドルで最安値を記録している。2014年1月から2016年12月にかけて、最高値から最安値まで下落したのである。
 その後は、今年3月31日まで反転上昇し、1元=6.263231米ドルと持ち直した。けれども、当日を境に、再び元安へと下落している。7月19日現在、1元=6.7976640米ドルである。
 ここで、人民元の為替推移と中国の貿易状況の関係を見てみたい。
 2011年、中国貿易は絶好調だった。そして、2012年から2014年にかけて、輸出入は前年同月比、大方プラスで推移している。
 ところが、2015年と2016年の2年間は、一転して、殆どの月で輸出入が前年割れした。最悪の2年と言っても過言ではない。だが、2017年以降、現在に至るまで、再び輸出入ともに前年同月比プラスで推移している。
 周知の通り、今年3月、トランプ大統領が中国製品に25%の課税をかけると発表した。ワシントンは北京に「米中貿易戦争」を仕掛けたのである。
 前述のように、同月31日には1元=6.263231米ドルだったが、その後、7月19日現在に至る(1元=6.7976640米ドル)まで、元安傾向が続いている。
 マーケットが中国経済の先行きを不安視して、元安が進行しているのだろうか。それとも、北京政府が故意に元安へ誘導し、輸出にブレーキがかかるのをくい止めようとしているのだろうか。
 トランプ政権に対抗して、習近平政権は対米報復関税を決定した。一説によれば、党最高幹部で、習主席1人だけが対米報復を唱えていると言われる。米国と世界を二分する大国が、経済論理ではなく、“面子”で報復関税をかけるはいかがなものか。“独裁”及び“政治優先”の弊害だろう。
 他の幹部からは、習近平主席の代わりに(共青団系の)汪洋副首相をトップに推す声が上がっているという。
 汪洋は、広東省トップ時代、烏坎村「民主化」の動きを弾圧しなかった。しかし、汪洋に習主席の代わりが務まるほど実力が備わっているのか不明である。