澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -309-
中国の5大危機

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2018年)7月19日、ジャック・レオン(Jack Leon)は『創享視界』に「情勢の急転直下で中国が5大危機に陥る」というコラムを発表した。簡単に紹介したい。
 レオンによれば、第1点目は、2013年に提起された「一帯一路」構想にあるという。
 コンサルタント会社“RWR Advisory Group”が最近、発表したデータでは、中国と「一帯一路」で関わる66ヵ国で1674プロジェクト中、234項目(全体の約14%)が、継続困難な状況に陥っているという。 
 ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)は、アジア・欧州交通インフラ整備計画で、その約9割を中国企業が請け負っていると指摘した。
 米国務省の報告では、北京は「一帯一路」の名を借りて、弱小国家に戦略的借款を行っているという。習近平政権はパキスタンやスリランカ等16ヵ国で「債務外交」を展開し、アジア・太平洋に政治的影響力を拡大している。
 昨年12月、スリランカは中国へ償還ができず、ハンバントタ港の運営権を北京へ移譲した。
 また、習政権はマレーシアに対し、230億米ドル(約2兆5300億円)の巨額プロジェクトを提示した。だが、「親中派」のナジブ首相(当時)は、政府系ファンド「1MDB」での汚職疑惑が浮上し、今年5月の選挙で敗北した。
 そこで、野党連合のマハティール(「反中国派」)が首相へ返り咲いた。早速、マハティール新首相は、中国と契約した高速鉄道計画を反故にしている。
 なお、中国は140億米ドル(約1兆5400億円)相当のマレーシア東部鉄道と3本の石油ガスパイプラインを請け負っていた。その総工費全体の85%が中国輸出入銀行からの出資である。
 第2点目は、エスカレートする「米中貿易戦争」である。
 近年、習近平政権は「中国制造2025」を掲げた。ただ、中国のやり方は、他国の技術を盗むか、強制的な技術移転だと言われる。
 周知のように、今年7月6日、トランプ政権は、中国からの340億米ドル(約3兆4700億円)相当の輸入品目に対し、25%の関税をかけた。更には、その4日後の10日、トランプ政権は更に2000億米ドル(約22兆円)相当の中国製品に10%の追加関税を課そうとしている。
 第3番目は、各国から包囲される「中国の侵略的拡大」である。
 最近、ホワイトハウスは、北京による米国への“経済侵略”で、同国は毎年1800億米ドル(約19兆8000億円)から5400億米ドル(約59兆4000億円)の損失を被っていると公表した。
 今年7月12日、『OC Weekly』は以下のように報じている。米カリフォルニア州に住む中国籍の女性キャシー・チェン(Cathy Chen。33歳)は米航空宇宙会社(米国防契約会社を含む)で会計の仕事をしていた。チェンは、米国の軍事技術(先端のレーダー、軍隊の通信ジャマー、低騒音アンプ等)を違法に香港ルートで中国へ流している。
 同6月28日、オーストラリア議会は、外国からの干渉を拒否する法律を圧倒的多数で採択した。「親中派」と見られていたマルコム・ターンブル(Malcolm Turnbull)豪州首相も、これらの法律で中国による豪州政府や同国メディア・大学への関与を防止すると明言した。
 翌7月6日、ニュージーランドは『新防衛政策戦略報告書』を公表し、国防大臣のロン・マーク(Ron Mark)が、初めて中国の脅威に言及している。北京は「一帯一路」政策を通じて、グローバル・インフラを拡張し、解放軍の現代化や拡大を図っていると指摘した。
 第4番目は、弱まりつつある中国での「個人崇拝の風潮」である。
 今年7月9日、台湾メディアは、中国の官庁は、各省機関に対し、習主席の肖像画を撤去し、その肖像を掲げる事を禁止したと報じた。
 同月13日、香港『蘋果日報』は、陝西省社会科学院で「梁家河大学問」の研究が予定されていたが、突如、中止されたと報じている(「梁家河大学問」とは、習近平主席が青年期、7年間「下放」された際、陝西省で思索した17項目を指す)。
 最後は、厳しさを増す中国大陸の経済状況である。
 今年3月「米中貿易戦争」が始まってから、株価は下落し、元安に振れ、外貨準備高は減少した。また、今年1月以来、中国大陸の企業のデフォルトが陸続として発生している。
 統計によれば、年初から現在に至るまで、同国内では既に20社あまりがデフォルトした。例えば、浙江金盾集団は100億元(約1700億円)の債務を抱え、浙江盾安ホールディングスは、450億元(約7650億円)の債務危機に陥っている。
 以上のように、現在、中国共産党政権は難しい舵取りが迫られている。