「今こそ日本版『台湾関係法』を作る時」
―“一帯一路”覇権政策の本質を見極めよ―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 エルサルバドルが台湾との国交を断絶した。16年5月に民主進歩党の蔡英文政権が発足してから、台湾と断交した国は5ヵ国目となった。なお、外交関係を持つ国は17ヵ国あるが、中国の圧力によって、いずれ台湾切りに動くのではないか。今回エルサルバドルが中国と国交を結んだのは、中国の“一帯一路”政策に絡め取られたからだ。残り17ヵ国はいずれも公共事業を起こす資金のない途上国ばかりだから、中国の誘惑には弱いだろう。一方で米国を始め台湾に期待する国々は増えている。台湾国内の輿論は75.2%の人が中華民国憲法の枠組みの下で「統一せず、独立せず、武力行使せず」の現状維持を望んでいる(行政院大陸委員会調査)。
 米国は台湾との間で台湾関係法を持っている。これは、国交はないが軍事に責任を持つという特殊な国内法規で、トランプ大統領はこれに加えて今年、「台湾旅行法」という特殊な法律を制定した。これは台湾の公務員が米国を旅行しても良いという法律で、実質的には公務員同士の接触をも可能にしたものだ。可決に当たって上下両院の全員が賛成した。
 凄まじい膨張政策をとっている中国に対する反発だろう。同時にかねて懸案だった潜水艦建造について許可を出し、米国企業との商談開始も認めた。
 台湾の親日度・日本の親台度は極めて高い。日本は台湾の役に立つ「台湾関係法」を考えるべき時だ。中国の狙いは尖閣諸島を獲り、台湾を併合すれば、太平洋への門戸が開ける。太平洋の覇権を握れば地球の半分は中国のものになる。一帯一路について今年6月に政権復帰したマハティール・マレーシア首相は着工中の2つの新幹線事業の中止を決断した。世界中で着手されている一帯一路事業の大半は大規模な資金不足に見舞われている。金利が払えなくて所有権を中国に譲った事業がいくつもある。ドイツの外相はG20の席で「一帯一路は中国の新たな侵略思想ではないか」と述べている。
 地球を俯瞰してみると日本列島と台湾は地政学的に中国大陸を封じ込めている。ヨーロッパで言えば台湾は大陸を封じ込めている英国の立場である。その英国が世界の覇権を握ることに成功した最大の理由は強い海軍を持っていることだ。米国が台湾を重視しているのは米国とともに海洋国家として存在して欲しいからだ。
 日本は日英同盟を結んでロシアに勝った。この結果を見て米国は日本の太平洋での覇権を恐れた。米仏を加えた4ヵ国条約に変え、続いて軍縮条約を提案した。米、英、日の参加国が5、5、3の割合にしようと持ち掛けられた。言い換えれば米英合わせて10対日本3の割合にされたのだ。
 米国が中国の太平洋進出を望まないことは日本の利益にも合致する。自由と民主主義、基本的人権を守るために「自由で開かれたインド太平洋戦略」を掲げる大義もある。
(平成30年8月29日付静岡新聞『論壇』より転載)