澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -317-
「中国・アフリカ協力フォーラム」と習政権

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2018年)9月3・4日、北京で3年毎の「中国・アフリカ協力フォーラム」(Forum on China‐Africa Cooperation=FOCAC)が開催された。
 その際、習近平主席は、600億米ドル(約6.6兆円)の経済援助を表明している。
 中国共産党としては、「一帯一路」の要所、及び“地球最後のフロンティア”であるアフリカ諸国と親密な関係を構築しておきたいのだろう。
 ただ、以前から我々が指摘しているように、北京政府は財政難で台所は“火の車”である。少なく見積もっても、財政赤字はGDPの250%はくだらない。
 今度の600億米ドル支出に関して、習主席は、一体どこからカネを捻出するつもりなのか。本来、その予算は国内に投資すべきではないのか。
 おそらくアフリカ諸国に対する習提案は「カラ手形」で終わるのは間違いない。
 さて、よく知られているように、中国経済には、3つのエンジンがある。(1)投資(2)消費だが、いずれも右肩下がりで、景気が良くない。
 (3)の貿易(特に輸出)は、本格的な「米中貿易戦争」のため、今秋以降、貿易の伸長は期待できない。従って、まもなく3つのエンジン全てが停止し、経済破綻する可能性がある。
 現在、中国国内では様々な問題が山積している。思い付くままに、列挙してみよう。
 第1に、いつ不動産バルブがはじけるのか、また、いつ株が大暴落するのかわからない。また、中国共産党は、シャドー・バンキング(ノンバンク)問題を解決できていない。依然、これらが“時限爆弾”として存在している。
 第2に、現時点の為替レートは、1米ドルおよそ6.8元あたりで推移している。だが、近い将来、7元を突破する公算が大きい。すると、たちまち輸入品が高騰し、インフレに陥るだろう。
 第3に、中国国内には、少なくとも2000社を超える「ゾンビ企業」が存続している。これらを整理・清算できない限り、中央政府の財政赤字は、増大し続けるだろう。
 第4に、中国では、かつて「一人っ子政策」を推進していたが、徐々に緩和し、2016年1月から(いかなる夫婦も2人まで子供が持てる)「二人っ子」政策へと移行した。だが、急に人口は増える見込みはない。
 他方、同国は「豊かになる前に老いた」のである。そして、典型的な「少子高齢化」社会へと変貌した。これでは、成長は難しいだろう。
 第5に、目下「アフリカ豚コレラ」(ASF)が国内に蔓延している。アウトブレイクはいつ収束するのだろうか。今のところ、ASFに対する有効な薬や手法は存在しない。
 豚肉生産消費大国、中国は(「貿易戦争」中の米国以外から)高い豚肉を輸入せざるを得なくなるだろう。これがインフレの一要因となるかもしれない。
 第6に、中国全土では、様々な労働争議が起きている。大部分は賃金未払い請求か賃上げ要求である。今後、景気が回復しない限り、労働争議は増え続けるだろう。
 第7に、退役軍人が生活改善を、また現役教師が給料アップを求めて、全国各地で再びデモを起こすかもしれない。特に、前者のデモは北京政府にとって、脅威となるだろう。
 第8に、最近、習近平主席よりも“左翼”(日本語と逆。“右翼”の保守派)の学生が、労働者を支援するために立ち上がったのである。1919年の「五四運動」から99年目、1989年の「6・4天安門事件」から29年目の出来事だった。
 第9に、中国で、環境問題が著しく改善されたという話は聞かない。依然、PM2.5に代表される大気汚染は深刻だと考えられる。肺や心臓の疾患に悩まされる人達が多いのではないか。
 大気汚染は、降雨によって土壌汚染・水質汚染にもなる。農作物に対し、多大に影響するだろう。
 第10に、習近平政権は、トランプ政権と「米中貿易戦争」を戦っている。
 米中2大国は、世界支配をかけた戦い(面子の戦い?)なのかもしれない。だが、短期戦ならば、最初から勝負の行方は明らかだろう。
 中国側は弾(米国からの輸入品目)が少ないのである。反対に、米国側は弾(中国からの輸入品目)が圧倒的に多い。同時に、中国側は景気が悪い。反対に、米国側は依然、景気が良い。
 ボクシングに喩えれば、習政権側は減量に失敗し、試合が始まる前から、体力がなくフラフラの状態だった。
 そして、第1ラウンドのゴングが鳴ると同時に、トランプ政権側が数多くのパンチを繰り出している。習政権がどれだけ持ち堪えられるのか見ものである。