澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -323-
ペンス演説は現代の「ハル・ノート」か?

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2018年)10月4日、米ペンス副大統領がハドソン研究所で“衝撃的”な演説を行った。歴代米政権の対中国政策を一変させる事実上の「対中宣戦布告」と言っても過言ではない。
 よく知られているように、既に今年初めから「米中貿易戦争」が開始された。それが本格化したのは春頃からである。我々は以前から、この貿易戦争が、経済上の単なる貿易摩擦ではないと主張してきた。
 トランプ政権(或いは、仮説としての米「奥の院」=真に米国を動かす勢力)が、「米中貿易戦争」に名を借りて、事実上の“対中国潰し”を図っているのではないかと。
 第1次大戦以降、米国は自国に挑戦する“異質な国”を次々とターゲットにし、潰してきた。
 第2次大戦前は、飛躍的に勃興した我が国である。日本は日清・日露戦争に勝利して以来、中国大陸や東南アジア方面へ勢力を拡大していった。
 おそらく米国から見れば、得体の知れない新興国だったに違いない。そこで、最終的に、同国は我が国を叩こうと企図した。その際、有名な「ハル・ノート」(ハル国務長官による、事実上の「対日宣戦布告」)を発表されている。
 『大辞林(第3版)』によれば、以下の通りである。
 「太平洋戦争直前の1941年11月26日における日米交渉で、アメリカ国務長官 C =ハルによってなされた提案。日本の中国およびインドシナからの全面撤退、中華民国国民政府以外のいかなる政権をも認めないなど、アジアの状態を満州事変前に戻せという内容。日本側はこれをアメリカの最後通告とみなし、12月1日開戦を決定した」。
 その後、日米開戦、そして日本の敗戦という推移を辿る。
 第2次大戦後、東西冷戦の中で、米国はソ連邦と対峙した。幸いにも、米ソは冷戦下で、(「キューバ危機」を含む)熱戦には至らなかった。だが、様々な局面で衝突している。アジアで、米ソは、朝鮮戦争時、或いはベトナム戦争時、裏では激しくぶつかった。
 ソ連は、レーガン政権の掲げた「戦略防衛構想」(通称「スターウォーズ計画」)に対抗しようとしたが、社会主義経済が行き詰まり、結局、米国との冷戦に敗れ、国家が崩壊している。
 次に、「改革・開放」以来、興隆してきた中国に対し、米歴代政権は初め歓迎し、同国へ援助を行っていた。だが、習近平政権となってから、中国が急激に「左傾化」(日本語と真逆で“保守化”の意味)した。
 オバマ政権時代、米国は中国の「左傾化」に対し、既にある程度、危機感を抱いていた。でも、オバマ大統領は、対中強硬措置を採らなかった。
 トランプが大統領に就任以来、突如、ワシントンは対中強硬の姿勢を取るようになったのである。
 さて、ペンス副大統領の演説では、中国共産党による様々な(米国の利益を損ねる)事例が、かなり具体的に語られている。
 ここでは、紙幅の関係で、重要部分だけを一部抜粋する(なお、翻訳は「海外ニュース翻訳情報局 」の樺島万里子、塩野真比呂、両氏による)。
 「ここ数年、中国は自国民に対して、統制と抑圧に向けて急激な転換をしました。」
 「今日、中国は他に類を見ない監視国家を築いており、時に米国の技術の助けを借りて、ますます拡大し、侵略的になっています」。
 「歴代政権は中国の行動をほとんど無視してきました。そして、多くの場合、中国に有利に導いてきました。しかし、そうした日々は終わりです。」
 「我々は世界史上最強の軍隊をさらに強化してきました。今年初め、トランプ大統領は、ロナルド・レーガン以来最大の国防費の増額する法案に署名し、716億ドルを投じて米軍の兵力をすべての領域に拡大しました。」
 「中国の支配者に対する我々のメッセージはこうです:この(トランプ―引用者)大統領は引き下がることはありません。・・・アメリカ国民は惑わされません。我々は、中国との関係改善を期待しつつも、我々の安全保障と経済のために引き続き強い態度を維持します」。
 おそらく、このペンス演説を聞いた習近平政権は、真っ青になったのではないか。誰が見ても、これは米国の「対中宣戦布告」以外には考えられない。
 また、ペンス副大統領は、目下、中国共産党が世界で行っている“対外膨張”活動を一切やめ、自由で民主的な国家を創造しようと呼びかけている。
 今の北京政府が唯々諾々とこのトランプ政権の警告に従うことは、まず、あり得ない(習近平主席が失脚すれば別だが)。
 今後、中国共産党がどのような一手を繰り出すかが注目されよう。