澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -333-
中国飼料に「アフリカ豚コレラ」ウイルス?

.

政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2018年)11月、安徽省青陽県木鎮鎮で「アフリカ豚コレラ」が発症した。同月9日、黄山畜牧養殖有限公司が、その死んだ豚と肥料を当局の検死に回したのである。
 2日後の11日夜、唐人神集団ホールディングス(以下、唐人神)は、安徽省青陽県で発症した「アフリカ豚コレラ」に関して、孫会社である江蘇溧陽比利美英偉栄養飼料有限公司(以下、溧陽)が製造した飼料から「アフリカ豚コレラ」の疑いのあるウイルスが検出されたと発表した。ただ、その詳細な検査データの公表までに、あと数日かかるという。
 仮に、これが事実だとすれば、中国大陸で起きている「アフリカ豚コレラ」の蔓延(17省市・自治区)がよく説明できるだろう。
 周知のように、同ウイルスは、鳥インフルエンザとは全く違う。鳥ならば、何百キロ、何千キロも離れた場所へウイルスを運ぶ事が可能である。
 ところが、「アフリカ豚コレラ」の伝染は、主にダニによる。常識的に、ダニがウイルスを遠くまで運ぶとは考えにくい。その他、豚同士が接触するか、或いは、野豚が養豚と接触してウイルスは伝染する。
 今年8月初め、遼寧省で「アフリカ豚コレラ」が発生して以来、中国当局は厳戒態勢を敷いて、ウイルスの絶滅にあたった。ところが、不思議な事に、何故か1000キロ以上も離れた中国中部や南部で、次々と「アフリカ豚コレラ」が発症したのである。
 中国東北部(遼寧省・吉林省・黒竜江省)周辺だけで病気が発症するならば理解できる。「アフリカ豚コレラ」のウイルスを持った豚が何らかの理由(例えば、豚の売買等)で移動した可能性を排除できないからである。しかし、大陸中南部でもアウトブレイクが認められた。極めて不自然である。
 だが、もしも豚の飼料の中に、「アフリカ豚コレラ」ウイルスが混入していたとすれば、腑に落ちる。その飼料を食べた養豚は、たちまちそのウイルスに侵されるだろう。まさか、この“悪夢”のシナリオは、誰も予想しなかったに違いない。
 無論、まだ「ウイルス飼料混入説」で決まりという訳ではない。だが、その公算は大きいだろう。
 また、注意を要するのは、中国大陸では未だに「アフリカ豚コレラ」のアウトブレイクが完全にはストップできていない点にある。今後、また各地で発症する恐れがあるだろう。
 ところで、1988年、唐人神は、国内主要トップ企業として創立された。同社は中国農業大学・中国肉類食品総合研究センター、香港大生行飼料有限公司等の株主が協力して設立されている。
 唐人神は、飼料、養豚、肉類を扱う。豚・鳥・魚飼料の研究・生産・販売から、豚の遺伝子育種の研究開発及び生きた豚の繁殖と販売、肉製品の開発・加工・販売等まで、多角経営を行っている。
 2016年9月、唐人神は、深圳比利美英偉栄養飼料有限公司(以下、比利美英偉)の株51%を買収し、自己の傘下に収めた(他方、比利美英偉は、溧陽を子会社化している)。
 『新京報』「唐人神傘下の会社の飼料から『アフリカの豚コレラ』ウイルスが検出される」(2018年11月12日付)は、唐人神・比利美英偉・溧陽3社について、以下のように報じている。
 今年10月30日、唐人神が本年第3四半期までの営業成績を公表した。同企業の1-9月の営業収入は、10.84億元(約177.1億円)で、前年同期比6.96%のプラスである。純利益は1.27億元(約20.8億円)だが、前年同期比では40.53%マイナスとなった。
 唐人神は、その理由を、生きた豚の相場が低迷しているため、養豚部門の利益が大幅に低下したと説明している。
 目下、唐人神の主業務は飼料である。同社は2018年1-6月、飼料販売収入は62.95億元(約1028.6億円)だった。前年同期比4.72%のプラスであり、飼料販売量は221万トンである。
 次に、比利美英偉(唐人神の子会社)は、今年9月30日までに、営業収入約4.1億元(約70億円)を達成した。純利益は、2738.1万元(約4.5億円)を実現している。
 また、9月同日までに、溧陽(唐人神の孫会社)の営業収入は6978.92万元(約11.4億円)に上った。純利益は563.62万元(約9209.6万円)である。
 もし、溧陽の飼料に「アフリカ豚コレラ」ウイルスが含まれているようならば、溧陽・比利美英偉・唐人神3社は確実に大打撃を受けるだろう。