澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -340-
2018年更に厳しさを増す中国経済

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2018年)11月29日、『ラジオ・フランス・アンテルナショナル』(RFI)は、中国経済に関する記事を掲載した。
 今年9月末、中国不動産大手企業、深圳万科の秋季大会で、会場スクリーンとその脇の壁の「活下去」(拙訳「生き残れ」or「生きて行こう」)という文字が人目を引いたのは記憶に新しい。
 RFIは、同記事の中で、“智谷趨勢”(公開名)の「2018年、生き残るほど重要な事はない」という11月26日発表の論文を載せた(経済的に大変な状況なのは、不動産業だけにとどまらない)。以下、その大筋を紹介したい。
 最近、突然、“大リストラ”のニュースが溢れ出した。BAT(百度、アリババ、テンセント)、ファーウェイ(華為)、京東などのIT大手企業さえも、リストラが始まるのではないかとの噂が流れている。だが、真偽のほどは定かではない。
 実際、沿海省に存在する輸出企業が相次いで閉鎖されている。台湾の鴻海(中国では“富士康”と呼ばれる)では、34万人がリストラされた。金融業、不動産業でも人員が削減されている。
 一方、今年4月から9月の6ヵ月間で、285万の求人広告が83万に激減した。たった半年で、202万もの求人広告が消失したのである。企業規模で言えば、従業員500人以下の中小零細企業が、その消えた求人広告の65.6%を占めているという。
 中国国家統計局によれば、2017年4月以来、製造業の就業指数が悪化している。今年10月には、過去28ヵ月間で最低の就業者数となった。また、非製造業の就業指数は、最近2ヵ月の間で“危険ゾーン”に陥っているという。
 具体的に、地方ではどのような事態が起きているのだろうか。
 第1に、四川省では新入社員数が減った。同省では、今年第3四半期、258社の企業でしか新入社員を採用していない。第1四半期では287社(第3四半期比10.1%減)、第2四半期では302社(同14.6%減)が新入社員を採用していたのである。
 第2に、湖南省では労働需要が減少し、第3四半期全省では、(補充すべき)欠員ポストが48.84万だった。前四半期の57.09万ポストと比べ、8.25万のポストが減っている。
 第3に、浙江省では、消費者の景気に対する信頼指数は、まだ楽観的な水準を維持している。けれども、雇用への信頼感は3四半期連続で下降した。
 第4に、広東省の今年第3四半期末、「四上企業」(一定規模以上の工業関連企業、資格を持つ建築関連企業、一定の年商以上の卸業・小売業・ホテル業・飲食企業、一定規模以上のサービス関連企業)の就業人数が、2175.03万人だった(前年同季比では7.3万人少なく、0.3%減である)。第2四半期と比べて18.91万人減り、0.9%マイナスとなった。中でも、製造業の就業人数が1番減少し、85.18万人で、6.3%も減っている。
 実は、中国人民大学就業研究所長の曾湘泉の予測によると、2018年は建国以後58年間で、就業数が最も減少した年となるという。少子高齢化、及び
 労働力が無限に供給できる時代の終焉による当然の帰結だろう。また、内外でのピンチが、この時期の到来を加速させているかもしれない。
 外部のピンチが、「米中貿易戦争」を指すのは疑う余地もない。他方、内部のピンチとは、中国経済発展の趨勢が弱まっていることである。これも明らかだろう。
 この就業全体数の減少という圧力が増大しているにも拘らず、中国当局は相変わらず、楽観的な就業数を発表している。
 都市登録失業率は3.82%と長年低く推移しているという(但し、この数字は、あくまでも“都市”だけの“登録”された失業率である。実情とは全く異なり、おそらく1桁違うのではないか)。また、都市の新就業数は1100万人、今年の指標を“前倒し”して達成したという。しかし、この数字も信じ難い。
 例えば、習近平政権は今年8月に発症した「アフリカ豚コレラ」に関して、同疫病を制圧できたと何度も強調している。けれども、依然、完全には制圧できていない。31省市(自治区を含む)中、既に21省市に同ウイルスは拡大した。90症例前後が確認されているという。
 そのため、いつになったら中国国内でそのアウトブレイクが止まるのか、誰も分からない状況に陥っている。