澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -350-
米加豪や台湾へ移民を希望する香港の若者

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年1月『ドイツの声』(2019年1月27日付)では「現状に失望した香港の若者達の移民志向が増えている」という記事が掲載された。これを紹介しよう。
 香港中文大学香港アジア太平洋研究所は、昨年(2018年)12月、18歳以上の香港市民を対象にして、708人に調査を行った。その結果、彼らのうち約3分の1が、もし機会があれば移民として移住する、もしくは海外に住むつもりだという。
 主な理由とは、(1)香港での政治闘争、(2)深刻な社会的亀裂、(3)住居や生活環境等への不満である。昨年、インタビューを受けた移住志望の香港市民の中で、16.2%の人が「その準備をしている」と回答した。一昨年(2017年)の調査では13.4%だったので、2.8ポイント上昇している。また、全体では5.5%が「その準備をしている」と回答した。これは、一昨年の4.5%と比べ、1ポイント高くなっている。
 香港人にとって、まず1番理想的な移住先はカナダである。移住志望者の19%が同国へ行くのを望んでいる。次がオーストラリアで、18%が同国への移住を希望している。そして、意外にも、移住志望の11%は台湾行きを考えている。
 他方、香港が住みやすい都市かという点では、100点満点中、平均で62.1点だった。一昨年は63.9点だったので、若干、住みにくくなったと言えよう。
 さて、香港理工大学社会政策研究センター主任の鐘剣華は、『ドイツの声』とのインタビューで、香港では1997年の香港返還の前、2つの大きな「移民潮」が起きたと語っている。
 第1波は、1980年代中頃、中英による香港返還交渉時に起きた。第2波は、1989年の「6・4天安門事件」の頃に起きている。ところが、1990年代から97年の香港返還後の十数年間は、香港人の移住は減少した。ただ、近年では、香港人移民は、再び増えている。
 鐘剣華によれば、最近、香港の若者の海外移住志向が高まっているという。まだ大学を卒業していない段階で、いち早く、ある程度のカネを貯めて移民申請し、台湾、あるいは伝統的移民先である米国・カナダ・オーストラリアへ行くことを熱望している。
 以前は、移民申請をする大部分の香港人が30歳から40歳以上で、一定の経済力のある中間層だった。
 しかし、ここ数年は、移民申請する年齢が比較的低くなり大学を卒業したばかりの、あるいは、まだキャリアを持たない在学中の大学生も海外移住を考えるようになった。
 鐘剣華は、この傾向は、近年の政治闘争と大いに関係があると考えている。2014年の「香港雨傘革命」後、社会の政治的ムードが低迷し、若者は社会の現状に対し大きな不満がある。だからと言って、社会変革の力を持っていない。
 加えて、香港での生活はプレッシャーが非常に大きい。生活コストは高く、家を持つ難しさは世界1である。最新の統計では、家族が全部の収入を蓄え、ほとんど食うや食わざるでも、家を買うのに19年かかる。これでは、香港に居残るより、むしろ移住した方がマシだろう。
 香港保安局が発表した移民数は、2014年から海外へ移住した香港人の数は、持続的に上昇している。2016年は、14年と比べて10%多くなっている。
 香港人の移民主要国家は米国・カナダ・オーストラリアで、とりわけ米国への移民人数が最も多い。2016年、香港人は米国に2800人移住したが、2015年の2100人と比べ33.3%増えた。
 一方、カナダ政府の数字では、同国へ移民申請をした香港人は、2014 年と2017年に、大幅に増えている。おのおの前年比で、14年には54.79%増、17年は30%増である(ちなみに、2017年、カナダへ移民申請した香港人は1561人だった)。
 最近、香港人は台湾への移民希望する人が増えている。台湾内政部移民署の数字によれば、2016年以降、香港人4000人余りが、毎年、同署に短期居留許可申請を行っている。同時に、香港人約1000人が移民定住許可申請を行った。台湾が香港人の新移民先となっている。
 ところで、環凱移民顧問有限公司の周凱婷が『ドイツの声』の取材に以下のように答えている。
 同公司は、香港人のために海外移民の代行手続きを行っているが、2018年、その数は、前年(17年)と比べ、約20%増加した。
 香港人の移民申請国は、米国・カナダ・オーストラリアが多い。だが、台湾も継続的に増えている。それは、台湾への移住は、比較的ハードルが低いからである。
 やはり移住を希望する香港の若者の比率が明らかに増加しているという。特に、20代前半の若者が少なくない。彼らは往々にして、大学を卒業したばかりの人達である。これは、香港の若者が移住する、あるいは、海外へ行くのを渇望しているからだろう。