澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -353-
柯文哲台北市長の真の人気度

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2019年)1月16日、『中時電子報』は、2020年1月に行われる次期総統選の世論調査結果を発表した。
 国立政治大学選挙研究センターが、その前の週に行った「2019国家安全調查」という世論調査で、次期総統選では、柯文哲台北市長が38.7%で1番人気だった。国民党の朱立倫(前回、2016年の総統選で敗れる)は21.5%で第2位、人気のない蔡英文総統は15.3%で最下位だった(なお、昨年末のTVBSの世論調査結果も似たような結果である)。
 その世論調査では、柯文哲市長が圧倒的な支持を集めている。
 逆に、なぜ蔡英文総統は人気がないのか。民視の東京支局長、張茂森氏によれば、蔡総統はほとんど何も仕事をしていないからだと手厳しい。
 民進党支持者は、蔡総統が「新憲法制定」や「国名変更」を目指す事を期待していた。けれども、彼らは蔡総統がそれらを一向にやる気配がないし、「ジェンダー問題」(特に「同性婚」)にこだわり過ぎていると感じていた。張氏は、だから、昨2018年11月の統一地方選挙結果で民進党は敗北したと指摘している。
 確かに、この結果を見る限り、蔡英文総統の再選は厳しいと言わざるを得ない。それでは、柯市長は、本当に次期総統選の最有力候補かと言えるのだろうか。
 実は、先月1月27日、台北市第2区で立法委員の補選が行われた。
 柯文哲市長の推す陳思宇(32歳の女性)が無所属で立候補した。柯市長の側近である。同補選で、その柯市長の真の人気・実力が問われた。
 陳思宇は、現台北市議員、陳建銘(無所属)の娘である。また、民進党の現職立法委員、陳静敏は彼女の叔母に当たる。
 昨年12月、陳思宇は台北市政府観光広報局長を辞し、「白色力量」を代表して補選に出馬した。「白色力量」とは、2014年3月、「ひまわり学生運動」(中台間の「サービス貿易協定」に反対し、学生らが立法院を占拠した事件)が起きた際、それに対抗するグループ「白色正義社會聯盟」の流れと言えよう。
 結果は、陳思宇の惨敗だった。いくら当日の投票率が30.4%と低かったとしても、陳は9689票(得票率12.0%)しか獲得できなかったのである。
 与党・民進党の何志偉候補(前台北市議)は、3万8591票(得票率47.8%)を獲得して当選した(なお、国民党候補の陳炳甫は3万1532票<得票率39.0%>を取っている。
 昨年11月、かつて民進党寄りであった柯文哲市長は、完全に同党と手を切った。そして、柯市長は、最も「(中台)統一志向」の強い「白色力量」に自身の基盤を築こうとしている。
 同時に、柯市長は、現在、中国共産党寄りの姿勢を見せている。昨年10月、中国の臓器狩りについて調査している米国のジャーナリスト、イーサン・ガットマン(Ethan Gutmann)は、ECMO(人工肺とポンプを用いた体外循環回路による治療<藤田医科大学「麻酔・侵襲制御医学講座」>)の技術に長けた柯文哲が、中国共産党の“臓器狩り”に関わっていると告発した。だからこそ、柯市長に中国に傾斜したのではないかと疑われている。
 翌11月、統一地方選挙で柯文哲はかろうじて再選を果たした。その時、中国共産党は「北柯南韓」(台北市では、柯文哲市長の再選、高雄市国民党の韓国瑜候補の当選)をスローガンにして、両者を支援していたのである。結局、中国共産党の思惑通り2人は当選した。
 今後、柯文哲市長が次期総統選で勝利できるだろうか。かなりハードルが高いと思われる。
 仮に「白色力量」(基本スタンスは「独立志向」の民進党と「統一志向」の国民党の間に位置する)が政党となっても、台湾有権者からどれほどの支持を得られるのか大きな疑問符が付く。
 同じスタンスの「時代力量」(民進党よりも「独立志向」の強い)は、若者から一定の支持を集めている。
 けれども、「白色力量」が国民党よりも「統一志向」が強いのでは、大部分の若者には受けないだろう。そのため、「白色力量」が勢力を拡大するのは、極めて困難である。今回、陳思宇の補選惨敗は、それを物語っていよう。
 次期総統選で、民進党候補と国民党候補が票の激しい奪い合いを行った場合、柯文哲市長が“漁夫の利”で勝利する可能性を排除できない。しかし、所詮、全島レベルの総統選で、組織票のない柯候補が“空中戦”だけで勝てるほど選挙は甘くないだろう。