澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -356-
范冰冰の脱税を告発した崔永元が失踪か?

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 周知のように、昨2018年秋、中国のナンバーワン女優、范冰冰が突如、長期間にわたり失踪した。
 元CCTVの有名キャスター、崔永元が、中国芸能界の慣行「陰陽契約」(表と裏の二重契約。一般的には「表3割、裏7割」という割合。裏契約は脱税)を暴露した。そのやり玉に挙がったのが、范冰冰だった。結局、范は、約146億円を納税して、当局から解放されている。
 范冰冰は、往年の大女優、劉暁慶や有名芸術家、艾未未とは違って、刑務所に入らずにすんだ。これは、“不幸中の幸い”だったかもしれない。因みに、范冰冰の持つ資産は500億円とも1000億円とも言われている。
 「范冰冰事件」を契機に、中国共産党は、芸能人らに対し期限を決め、その日までに正しく納税すれば罪に問わないとした。そこで、多くの芸能人達は、収入を修正申告して納税を行っている。
 中国の人気俳優や映画製作会社等は、昨年末までに総額約117億4700万元(約1900億円)の税金を修正申告した(『西日本新聞』2019年2月4日付)という。
 国庫にカネが不足する習近平政権は、芸能人からも財産の“巻き上げ”に成功した(既に、同政権は、有名企業家―例えば「明天系」の蕭建華や「安邦保険」の呉小暉等―からも巨額の財産を巻き上げている)。
 習政権が范冰冰ら芸能人の脱税にメスを入れたので、庶民の中には、同政権に喝采を送る者が少なからずいただろう。そのため、崔永元は英雄視されるようになった。
 昨2018年12月下旬、崔永元は、今度は最高人民法院(最高裁判所)院長(裁判長)の周強が「陝西北部千億鉱山権事件」の“黒幕”だと告発したのである。
 「陝西北部千億鉱山採掘権事件」とは、民間企業の「凱奇莱エネルギー投資有限公司」(以下、凱奇莱)が鉱山採掘権をめぐり、地方政府の公的機関「西安地質鉱物資源開発研究所」(以下、西安地質)を訴えた事件である。
 陝西北部榆林横山県の榆横鉱山北区は面積339.2平方キロメートル、石炭の埋蔵量15.68億トン、可能採掘量10.98億トン(1千億元<約1.65兆円>の価値を持つという)あるという。その採掘権の帰属をめぐる争いだった。
 裁判は、2006年から2017年まで10年以上続いた。この期間、西安地質は、たびたび裁判に干渉したと言われる。
 まず、高級人民法院(高等裁判所)の1審判決では、凱奇莱が勝訴した。だが、西安地質が最高人民法院へ上訴すると、審理は高級人民法院へ差し戻された(1審判決破棄差し戻し)。すると、同法院の差し戻し裁判では、西安地質が逆転勝訴したのである。
 その判決を不服として、凱奇莱は、最高人民法院へ上訴した。結局、2017年12月、同法院で凱奇莱が再び逆転勝訴し、最終的に判決が確定したのである。
 実は、その差し戻し裁判の際、最高人民法院から重要ファイルが紛失している。その時、判事だった王林清が、これは周強院長の仕業ではないかと疑った。
 そこで、昨年12月末、王林清は崔永元の協力を得て、証拠写真を撮り、周院長を告発したのである。同時に、その証拠写真を崔に提供した。一方、崔永元は微博(ウェイボー=中国版ツイッター)で、それらの写真を使い、周院長の事件関与を追及した。
 だが、その後、王林清は50日間余り失踪している。当局から拘束されていたに違いない。そして、今年(2019年)2月22日夜、突如、王林清がCCTVに登場し、自分が重要ファイルを故意に隠匿したとして、“罪”を認めたのである。
 但し、中国の場合、「犯人」とされる人物がカメラの前で「自白」する際、中国共産党が何らかの強制的手段を使って、無理やり罪を認めさせることがある(例:中国人権派女性弁護士、王宇や香港「銅羅湾書店」の桂民海など)。
 従って、今回、中国共産党が、同党の都合の良いようにシナリオを書き、王がそれを言わされた公算が大きいのではないか。
 結局、当局による合同調査結果では、(1)周院長は事件には関わっていない、(2)王林清は職場に不満があったので、「自作自演」の“狂言”を行った、という結論を出した。一説には、胡錦濤前主席が、同じ「共青団」に所属する周強を守るため、事実を捻じ曲げたとも言われる。
 その後、今度は崔永元が失踪した。既述の如く、崔永元は、周院長が事件に関与したと主張する王林清の証拠写真をネットに流した。その中には「国家機密」が含まれていたという。
 そのため、崔永元が「国家機密漏洩罪」に問われる可能性が出てきた。崔永元という“ヒーロー”が、一転して“犯罪者”に転落したかもしれない。今後、習近平政権が崔永元をどのように扱うのかが注目されよう。