澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -357-
習一族の腐敗を暴露した香港『成報』元会長

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 中国の景気が一向に回復する気配が見られない。そのため、今年(2019年)3月3日からの政治協商会議(以下、政治協商)、また同5日からの全国人民代表大会(同、全人代)で、習主席に対する厳しい批判が一部で噴出する恐れがある。
 その両会開幕直前の2月26日、香港『成報』グループ取締役会元会長、谷卓恒がツイッターで、突如、習近平一族の不正蓄財を暴露した。
 谷卓恒によれば、習一族が香港のおよそ3000社のペーパーカンパニーを使って、1兆米ドル(約110兆円)も私腹を肥やしているという。谷は習近平主席の腐敗は、他の中国共産党元最高幹部よりも更に酷いと指摘している。
 因みに、元最高幹部とは、江沢民元国家主席、朱鎔基元首相、李鵬元首相、胡錦濤元国家主席、温家宝元首相、曾慶紅元国家副主席を指す。
 習近平主席は王岐山(元党中央紀律検査委員会書記、現国家副主席)と組み、贈収賄を行った政敵を次々と打倒した。習主席自らも堕落しているのが、明るみに出たのである。
 だが、以前、2016年5月に公表された「パナマ文書」及び2017年11月の「パラダイス文書」で、習一族の自堕落ぶりは既に立証されているのではないか。
 ここで、習一族について一瞥しておこう。習近平主席には、習遠平という弟がいる。遠平は香港籍で、オーストラリアの永住権を持つ。
 他方、母親(齊心。習主席の父親、習仲勲の後妻)の姓を名乗る1番上の姉、斉橋橋とその夫、鄧家貴も香港籍でカナダの永住権を保持している(夫婦はカナダ国籍を所持しているという報道もある)。
 2番目の姉、斉安安とその夫、呉龍はオーストラリアの永住権を持つ。但し、長姉、斉橋橋夫妻と比べて、あまり目立たない。
 刮目すべきは、習主席の長姉、斉橋橋と主席の義兄、鄧家貴である。この2人は、かなりの“やり手”と目されている。
 実は、「明天系」蕭建華(突然、中国公安に香港から中国大陸に連行され、現在、行方不明)の資産は「北京秦川大地投資有限公司」に接収された。その金額は1兆米ドル(約110兆円)規模と言われる。鄧家貴は、この「秦川大地」の株主として名を連ねている。
 閑話休題。2015年、谷卓恒は中国国家安全局に習一族の不正蓄財を暴いたら殺すと脅された。身の危険を感じた谷は、米国へ逃亡して身を隠し、今は“隠居”状態である。
 谷卓恒は、2016年10月、違法に13.5億元(約225億円)の資金を集めた(いわゆる出資法違反)疑いで、深圳警察から逮捕状が出ている。更に、2017年2月、谷卓恒に対し、国際刑事警察機構(インターポール)から捜査令状が出た。
 かつて谷卓恒は、中国共産党のエージェントだった。既に、香港には同党のエージェントが数万人もいると言われる。
 しかし、何故、谷卓恒が今頃になって、急に習一族の腐敗を暴露したのか(一説には、谷は米FBIと協力関係にあるという)。もし、その気さえあれば、もっと早く、それを公にする事ができたはずである。
 時期が、まさに両会の直前だった。協商会議の5日前、全人代の一週間前である。あまりにもタイミングが良すぎるだろう。
 おそらく、習近平主席を敵視している人間、ないしはグループが谷卓恒の後ろに控え、谷に暴露させたのではないだろうか。
 では、それは誰か。どのグループか。
 常識的には、習政権から徹底的に打撃を受けた江沢民系「上海閥」や一部の胡錦濤系「共青団」が習主席に牙をむいたと考えられる。
 一方、昨年、范冰冰を始めとして、習政権に巨額の財産を搾り取られた芸能界が、習主席に対し反撃に出た公算も少なくない。
 よく知られているように、中国芸能人は、党最高幹部と繋がりが深い。彼らのバックには、政治的大物がいるケースもある。ひょっとして、一部の芸能人が政界の大立者を使って、習主席を政権の座から引きずり下ろそうとして画策しているのかもしれない。
 ところで、谷卓恒同様、目下、米国へ逃亡している郭文貴(元ビジネスマン)は、習近平主席ではなく、その盟友である王岐山をターゲットにした。郭は、王岐山に関するスキャンダル暴露に力を傾注してきたのである。
 しかし、谷卓恒は習近平主席をターゲットにしている。もしかしたら、郭文貴は王岐山を、谷卓恒は習主席を攻撃するという役割分担があるのかもしれない。
 今後も中国共産党内の権力闘争は続くだろう。