澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -359-
宗教弾圧に邁進する習近平政権

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2019年)2月2日、習近平政権は河北省石家庄平山県の絶壁に彫刻された世界最大の「滴水観音像」を爆破した。
 高さ57.9メートルの立像は、5年の歳月と1700万元(約2億8000万円)を費やして岩肌に彫られた。その観音像は、多くの信者や観光客に崇められてきたのである。
 だが、今年1月、中国当局が観音像付近にやって来て、一般人が立ち入るのを禁じた。そして、観音像の頭部を爆破し、時間をおいて胴体部分を爆破している。
 習政権は、かつてタリバンが行った仏像破壊と同じ破壊行為を行った。恥ずべき行為ではないか。
 2001年2月、タリバンは、“偶像”がイスラムの教義に反するとして、アフガニスタン・バーミヤンの大仏破壊を宣言した。
 それに対し、各国は反対声明を出したが、タリバン側は完全に無視した。翌3月、タリバンは大仏を爆破し、遺跡は壊滅的な被害を受けている。
 中国では「文化大革命」(1966年~76年)の際、紅衛兵によって仏像が破壊された。
 「文化大革命」開始後、まず『人民日報』が「古い思想、文化、風俗、習慣を打ち破ろう」(「四旧打破」)と唱えた。その後、1968年、林彪が「四旧打破」と若い紅衛兵に直接呼びかけたのである。
 その呼びかけに応じて、紅衛兵らは、歴史的に貴重な文物を次々と破壊して歩いた。その中には多くの仏像も含まれていた。
 観音像破壊を見る限り、目下、中国では「文化小革命」(「文化大革命」をもじった言い方。「第2文革」ともいう)が進行していると言っても過言ではないだろう。
 実は、昨2018年、山東省淄博市九鼎蓮花山に鎮座していた観音菩薩像も中国当局によって撤去されている。
 この観音像は、2009年、篤志家によって建立された。高さは34メートルで建設費用が888万元(約1億4700万円)かかったという。その後、多くの仏教徒が、観音像へ参拝している。
 だが、昨年6月、宗教事務局がその観音像の所有権を得た。そして、蓮花山の山道に非常線を張り、人が立ち入らないようにして、同年11月、観音像を撤去した。
 周知の如く、習近平政権は新疆・ウイグル自治区に住むイスラム教徒を虐待している。既に100万人以上のウイグル人が「再教育キャンプ」へ強制収容され、洗脳教育が行われているという(米国が、「米中貿易戦争」で北京に対し厳しい態度を取るのは、習政権の宗教排斥が背景にあると考えられよう)。
 さて、習近平政権の宗教締め付けは、イスラム教徒や仏教徒のみならず、キリスト教徒にまで及んでいる。
 近年、キリスト教会が北京の攻撃対象となった。教会のシンボルの十字架が取り壊され、教会内には五星紅旗や習近平画像を掲げるよう強制されている。
 ここ数年間、中国当局は浙江省の教会を重点的に取り壊した。だが、昨2018年、今度はその対象が河南省へ移ったのである。
 例えば、同年8月29日、同省鄭州登封で、教会の十字架が撤去された。同31日、同省平頂山汝州小屯にある教会の十字架が取り壊されている。
 翌9月1日、やはり同省安陽県北郭豆の教会の十字架が撤去された。同5日、同省南陽市唐河県の農村教会が“破壊”されている。
 結局、昨年、中国では2000万人以上のキリスト教徒が迫害を受けたという。また、10万人を超える同教徒が逮捕されている(但し、彼らの大部分は、拘束後、すぐに釈放された)。
 以上のように、習政権によるキリスト教会や同教徒迫害に関して枚挙にいとまがない。
 1999年4月、法輪功修練者らが天安門広場に集まり、江沢民政権に対し、法輪功圧制への抗議活動を行った。その後、恐怖感を抱いた中国共産党は法輪功を「邪教」と決めつけ、厳しい取り締まりを開始した。
 一方、仏教徒やキリスト教徒は北京に抗議して、何か行動を起したわけではない。それにも拘らず、習近平政権は宗教的抑圧を強めている。
 中国共産党は一体、何を恐れているのだろうか。今後も、習政権がこのような宗教弾圧を続ければ、ますます国内外にいる宗教関係者の反発は強くなるばかりだろう。
 今日、中国がいくら強固な“警察国家”を作り上げているとしても、所詮、独裁国は脆弱である。経済状況が逼迫している中、いつ何時、中国共産党の足元が揺らいだとしても、おかしくはないのではないか。