澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -364-
またも起きた中国化学工場爆発事件

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 よく知られているように、中国では、しばしば大きな爆発事故が起きる。
 今年(2019年)3月21日、江蘇省塩城市響水県の「天嘉宜化工有限公司」(“Jiangsu TianJiaYi Chemical”。以下、「天嘉宜」)の工場で大爆発が起きた。その際、マグニチュード2.2の震度を記録している。
 まず、同日、14時頃「天嘉宜」の固体廃棄物倉庫で火災が起きた。その後、14時50分前に、大爆発が起きている(ある従業員の証言によれば、初め、天然ガスを運んでいるトラックが燃え出した。その後、ベンゼン保管地域で爆発を起こしたという)。
 塩城市12の消防隊900人以上(消防車192輌)が投入された。翌22日7時頃、事故現場では、ほぼ火が消し止められている。だが、倉庫跡には、大きな円形の窪みが出現した。ちなみに、現場から半径3キロメートルに小学校が4つ、幼稚園が3つあった。
 この大爆発と火災で、78人が死亡、負傷者は640人、行方不明者が28人だという(3月25日現在)。ただし、この中国当局が発表する数字は、あまりあてにならない。
 「天嘉宜」は、2007年4月に設立された。資本金は、9000万元(約14億7600万円)で、化学薬品の製造販売を行っている。同社はエチレンジアミン(アンモニア臭のある無色の液体)製造では中国第2位の生産量(年間1.7万トン)を誇る。
 董事長は林琰で、企業法人代表、総経理は陶在明だが、この2人が会社の真の所有者ではないという。「天嘉義」の株は、江蘇倪家巷集団有限公司が70%、連雲港博昌貿易有限公司が30%保有する。
 実は、2012年、「天嘉宜」は、化学廃棄物100トン余りを不当に処理し、厳重な環境汚染を引き起こしたとして、当局から100万元(約1640万円)の罰金を科せられた。
 2017年9月にも、同社は、響水県環境保護局から環境汚染違反や公共安全管理義務違反で処罰された。
 2018年2月、国家安全生産監督管理総局弁公庁は、「天嘉宜」に対して13項目にわたり、安全上の問題点を指摘していたのである。
 一方、現地の陳家港化工開発区では、今回の大事故が発生する前、いくつかの事件が発生している。
 2007年11月、江蘇聯化科技有限公司が爆発事故を起こし、8人が死亡した。2010年11月、江蘇大和塩素アルカリ化工公司が、塩素ガス漏れを起こし、30余人がその中毒症状を起こしている。
 2011年5月、南方化工が火災を発生させた。同化工は、7月に再び爆発を起こしている。
 こうしてみると、「天嘉宜」の大爆発は、起こるべくして起きた事件かもしれない。
 今度の大火災で思い出されるのは、2015年8月に天津浜海新区倉庫で起きた化学工場の大爆発事故である。この時も、マグニチュード2.3の震度と2.9の震度を記録する大爆発が起きた。
 ある高層マンションは、一棟丸ごと、窓ガラスがすべて吹き飛んだ。また、近くにあった警察署は、建物の外観だけが残った。その建物の中にいた警察官は、全員即死だったに違いない。
 当時、未熟練の消防隊員が、化学工場火災の消火に当たった。だが、誤って放水したため、2度目の大爆発が起きている。彼らは、現場の化学薬品に水を混ぜると、爆発するのを知らなかったらしい。その際、ほとんどの消火隊員は吹き飛ばされ、亡くなっている。
 この大爆発で、直径100メートルとも言われる大きな円形の窪みが出現した。遠く離れた天津駅まで爆風が襲い、駅構内を滅茶苦茶にしている。
 中国当局は、165人(消防隊員・警察官110人、地域住民他55人)という数字を発表した。しかし、一体、何人の人間が亡くなったのか定かではない。たぶん1桁多いのではないか。
 一説には、この化学工場大爆発の背景には、「習近平暗殺計画」があったという。
 毎年、夏に開かれる北戴河会議(現役幹部と引退した長老を含めた非公式会議)終了後、習近平主席は、天津駅経由の鉄道で北京へ帰ろうとした。
 だが、「反習近平派」が天津駅付近で習主席の暗殺を企てた。事前に暗殺計画を知った習近平主席は、別のルートで北京へ戻っている。
 「反習近平派」は、この未遂に終わった暗殺計画を隠蔽するため、この化学工場を爆破したという。
 その後、しばらくすると、その一帯は公園となった。あたかも何事も無かったかのようである。
 中国では三権(行政・立法・司法)が分立せず、第4の権力と呼ばれる独立したマスメディアも存在しない。「一党独裁」の弊害が露呈している。
 したがって、中国共産党支配下にあっては、この類いの大事件が起きても、徹底した究明が為される事がない。おそらく、今後も事件は繰り返されるだろう。