澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -365-
成都七中で起きた学食中毒事件の顛末

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2019年)3月中旬、成都七中実験学校の食堂で前代未聞の事件が起きた。当時、まだ北京では両会(全国人民代表大会と政治協商会議)が開催中だった。習近平政権としては、両会期間中の大事件発生を望んでいなかっただろう。しかし、往々にして、こういう時期にこそ事件は起きる。
 以下、潘小濤の記事、「成都の学校食堂に中国の腐敗を見る」『蘋果日報』(2019年3月22日付)を参考にしたい。
 成都七中実験学校の学食で、長期間、同校の小学生らに、カビの生えた腐った給食を出していたのである。無論、それを食べた児童らは、腹をこわしていた。
 3月12日は、同校の家長(日本語の「父兄」に相当)が公式行事(植樹)に出席し、その後、家長らは学食へ行った。そこで、家長らは自分達の子供達に腐った食事が出されていた事を初めて知ったのである(ある家長は、はるばる北京の病院へ行って、子供に診察を受けさせていた)。
 家長らは、腐った食材の証拠写真を撮り、学校側に事件の徹底調査とその責任追及を求めた。保護者としては、当然の抗議だろう。
 ところが、警察が大挙してやって来て、家長らの抗議デモを鎮圧した。ここでも、また中国での“お馴染みの光景”が展開されている。
 3月17日、成都市連合調査チームが“偽”の家長らを伴って、記者会見を開いた。当局が検査した結果、当該学食は、粉末サンプルにカビが生えていただけで、その他の食材はすべて基準に合格していると公表したのである。
 また、同調査チームは、家長が食堂に潜入して撮影した、カビの生えた饅頭や水気のない果物等の写真は“偽造”だと決めつけた。
 結局、3人の家長はネットに“偽造写真”をアップしたという理由で、「(仮訳)騒乱挑発罪」(具体的には、他人への誹謗中傷や公共秩序を撹乱した等。最高、5年の有期刑)で逮捕された。どうやら同国には“正義”が存在してない観がある。
 学食を提供していたのは「四川徳羽後勤管理服務有限公司」(以下、「四川徳羽」)という会社である。成都七中以外、20以上の学校や数企業へ食事などの物流サービスを提供し、10万人以上の人が関わっているという(ちなみに、四川省の学校は、省外の企業と契約することはできない決まりになっている)。
 一企業が成都にある数十の学校等の給食を提供する場合、バックに有力者がいないと、営業は不可能である。同企業の後ろにいる人間は、四川省か成都市教育機関の役人、あるいは、その家族だろう。
 中国でビジネスを始める際、カネを使って道を拓き、関係者に巨額のカネを配らねばならない。そうしない限り、会社は存続できないはずである。
 たとえ、会社のバックに有力者がいたとしても、その有力者にカネを送る余力がない時には、食材費を大幅にカットする。
 という事で、一応、「四川徳羽」が学食で腐った給食を出した説明がつくだろう。その事件の根は、「官界の腐敗」にあると潘小濤は主張した。
 一方、「小民の心」の司会者、小民は「成都七中の“毒入り夕食”は“家長の捏造”で終わったが、それは中国での社会事件の“必然的結末”か?」(『美国之音』2019年3月20日付)で、以下のように鋭く指摘した。
 今回の事件が発生すると、まず当局は校長の解雇をすぐに決定した。同時に、学校の理事会も改組を求めている。
 事件発生から2日目、成都市トップ(範鋭平)と四川省トップ(彭清華)、および四川省長(尹力)が各方面へ指示を出した。重大な事態が発生した事は明らかである。
 そのため、トップらは迅速に動き、世論の沸騰を抑えようとした。けれども、彼らの目的は達成されなかった(実は、彭清華は「習近平派」ではなく江沢民系の曽慶紅派に属する。今後、習近平主席はこの件で彭に対し、厳しく処罰する公算がある)。
 学校側は、まもなく「四川徳羽」との契約を解消した。もし、会社側に過失がなければ、学校側が一方的に契約を解消する事はできないはずである。
 以上をあわせて考えれば、給食自体に問題があった事は明らかだろう。また、学校側も以前からこの問題を把握していたのである。
 今年3月21日に起きた江蘇省の化学工場大爆発事故同様、今度の事件でも“中国の闇”の深さを垣間見る。