澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -107-
「中進国の罠」に陥った中国経済

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 中国当局は、今年第1四半期(1-3月期)のGDPはプラス6.7%だと公表した。仮に、この数字が本当ならば、“高成長”だと言えよう。
 ここでは、いわゆる「中進国の罠」に陥った中国経済の現状を一瞥してみたい。

 第1に、かつて中国は世界中から投資を呼び込み、「世界の工場」として「輸出志向型」で成長した。ところが、人件費の高騰(特に沿海地方)やチャイナ・リスク(「朝令暮改」の法令、労働争議等)の増大で、中国への投資が減少している。それに伴い輸出入ともに激減した。

 第2に、現在中国は、1990年以降で経済状態が最も悪いので、習近平政権は財政出動による景気浮揚策が考えられる。けれども、中国の財政赤字は想像以上に悪化している。国家・企業・個人の借金の合計は、GDPの280%にものぼると推計される。そのため財政支出もままならない。

 第3に、習近平政権は「投資から消費へ」の構造転換を目指している。だが、同政権の発足以来、中国では「贅沢禁止令」が公布された。そのため、党・政府・国有企業の幹部らは、国内で豪勢にカネを使うことができない。
 他方、中間層(特にアッパーミドル)以上は海外で“爆買い”をしている。中国国内に流通しているモノは信用できないので、彼らは高くても良いモノを求めて海外で消費する。これでは国内消費が伸びるわけがない。
 ちなみに、今年4月8日、北京政府は中国人観光客による海外での購入品に対する関税を引き上げた(以前は、10%・20%・30%・40%の4段階だったが、15%・30%・60%の3段階に変更)。例えば、食料品などは15%、時計などの高級品は60%である。当然、一部から不満の声が上がっている。

 第4に、“1線都市”と呼ばれる北京・上海・深圳など大都市における居住のための新築住宅は、依然、価格が上昇傾向にある。2011年12月を100とした場合、2016年3月には北京市で30%以上、上海市で40%以上も価格が上昇した。また、深圳では約2倍近くになっている。
 他方、“4線都市”と呼ばれる地方都市の場合、居住のための新築住宅の価格が伸びていない。例えば、黒竜江省牡丹江市・広東省湛江市・四川省南充市などでは、2011年12月を100とした場合、2016年3月でも、価格がほぼ横ばいである。
 不動産売買は政府の主要収入源となっている。地方都市の不動産価格低迷は、中国当局としても頭の痛いところだろう。すでに中国各地には“鬼城”と呼ばれるゴーストタウンが数多く存在する。そのゴーストタウンに人が住めば、34億人が住めると試算されている。
 地方政府がGDPを伸ばすには、“不要不急”の不動産物件やインフラを造り続ける必要があるかもしれない。

 第5に、江沢民政権下、朱鎔基首相が「国有企業改革」を推進した。まだ当時は経済が好調だったので、国有企業を解雇された人々は別の産業への配置転換が可能だったのである。
 ところが現習近平政権下、李克強首相が「国有企業改革」(「ゾンビ企業」を整理する)を目指しても、人員をクビにしたら最後、他の産業への配置転換は難しい(目下、国有企業の賃金未払いは、習近平政権の喫緊の課題となっている)。
 また国有企業は人民解放軍や党・政府幹部らの利権の温床となっている。そのため簡単に倒産・整理させることはできない。ここに、今の中国の“ジレンマ”が存在する。

 第6に、結局、中国経済を成長させるためには、「一帯一路」構想を掲げた習近平主席が海外でトップセールスを行い、外需を伸ばすしか手は残されていないのではないか。
 ただし、その高速鉄道等の売り込みは日本等のライバルもいるので、決して容易ではないだろう。また、この習主席の(他国に巨額のカネをばら撒く)トップセールスには、国内から回収が困難との批判もある(例:インドネシア高速鉄道)。

 周知のように、昨年、中国が中心になってアジア・インフラ投資銀行(AIIB)を設立した。だが日米が加盟しないため、AIIBは国際的信用格付けができていない。またAIIBは資金不足のため、未だに日本をはじめ未加盟国に対し加入を募っている。
 最近の英『フィナンシャル・タイムズ』の報道によれば、AIIBの初仕事は、中央アジアのパキスタン・タジキスタン・カザフスタンでの道路建設である。けれども、パキスタンにおいてはAIIB単独ではなく、アジア開発銀行(ADB)と“協調融資”で高速道路の延長工事を実施するという。