澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -373-
次期台湾総統選挙に対する米中の思惑

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2019年)4月17日、鴻海精密工業(ホンハイ)の会長、郭台銘が、2020年1月の次期台湾総統選挙への出馬を宣言した。
 鴻海と言えば、3年前、日本のシャープを買収した会社なので、我が国でもよく知られている。中国大陸では「富士康」(フォクスコン)という名称で通っている。一時、中国大陸では同社の中国人従業員がしばしば自殺するので、話題になった。
 我が国のマスメディアでは、台湾での出来事が扱われる事は少ない。ところが、この度、郭台銘(外省人)が国民党の予備選に出馬するだけで、かくも報道されるとは驚きである。台湾の次期総統選挙がそれほどまでに、注目されているという事なのか。
 一部の人達は、郭台銘が台湾総統になったら、「中台統一」が現実味を帯びると考えている。しかし、それはあまりに短絡的過ぎるのではないだろうか。
 まず、郭台銘が国民党の予備選で勝ち抜き、同党の次期総統候補になれるのか。党内でも様々な思惑があり、郭台銘がすんなりと総統候補になれるとも思えない(因みに、4月23日、国民党で有力視されていた韓国瑜高雄市長は、来年の総統選への出馬を辞退した)。
 たとえ郭が総統候補になったとしても、来年、本番の総統選挙で、民進党候補(蔡英文現総統か頼清徳前行政院長)、或いは、無所属候補(柯文哲台北市長)に勝てるかどうか疑問である。
 さて、与党・民進党は、本来ならば4月17日、蔡総統か頼前行政院長のどちらかを世論調査で、次期総統候補に決定する予定だった。
 ところが、4月10日、突如、同党は、党中央委員会を開催して、総統候補決定を5月22日以降、遅くても同月31日までに決定と先延ばしにしたのである。
 民進党は、党の分裂を避けるためとはいえ、ちゃんとした手続きの下、世論調査で総統候補を決定すべきだったのではないか。
 党内としては、「蔡総統候補・頼副総統候補」ペアで来年の選挙に臨みたいところだろう。しかし、蔡英文総統はあまり人気がないので、同ペアでは、勝てないかもしれない。頼清徳が総統候補の方が、民進党としては勝利が期待できるのではないだろうか。
 ところで、次期台湾総統選挙に関して、中国共産党はどんな思惑を抱いているのか。
 昨2018年11月の統一地方選挙では、習近平政権は「北柯南韓」というスローガンを掲げ、台北市長選では、「親中派」の柯文哲市長(無所属)の再選を、南部の高雄市では、やはり「親中派」の韓国瑜(国民党)を支援した。そして、北京の期待通り、両者は勝利している。
 今回、仮に、郭国民党候補と無所属の柯候補が総統選挙へ同時に出馬すれば、必ずお互いに足を引っ張り合うだろう。そこで、習政権は、柯文哲の総統選出馬を思いとどまらせる事ができるのか。
 一方、米国の思惑とは何か。
 昨2018年4月、「台湾独立派」(「台湾独立」の真の意味は、中華民国からの“独立”であり、決して中華人民共和国からの“独立”ではない)が「喜楽島連盟(フォルモサ・ アライアンス)」を立ち上げた。同連盟は、今年、公民投票による台湾(中華民国)の「国号変更」を目指している。
 しかし、今年2月13日、米国在台協会(AIT)は「喜楽島連盟」による「台湾独立」(=国名変更)の是非を問う公民投票実施に関して、米国は「台湾海峡の現状を変更する一方的な行為には反対」し、公民投票を「支持しない」と表明した(但し、台湾の国名変更が本当に両岸の現状を変更するのか、検討の余地がある)。
 だが、一方では、4月3日、米国在台湾協会の報道官は「事務所には海兵隊を含む陸海空の軍人が2005年から駐在している」と初めて明らかにした。もし、それが本当ならば、驚愕の事実である。2000年代半ば以降、米国がいかに台湾防衛に腐心していたかが伺えよう。
 米国としては、たとえ民進党が政権を継続しようとも、また、国民党が再び政権を奪還しようとも、はたまた、無所属候補が総統に当選しようとも、「中台統一」を阻止し、必ずや台湾を防衛するだろう。
 ある意味、台湾の総統選挙とは、米国の掌中で行われる“儀式”に過ぎないのかもしれない。