「漢字を捨てた韓国人の悲哀」
―ハングル文字だけでは伝統文化は育たない―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 およそ、世界中の人々と付き合ってきた。その中でどうしても理解できないのが中国と韓国の人達だ。韓国は日本が併合した時代にはそこそこ折り合っていた、というより仲良くできていた。日本に帰化した呉善花氏は幼少の頃、両親が知人と抱き合って、「日本人は良い人達だったわ。涙ながらに別れを言ってきたのよ」という会話を漠然と記憶していたという。それが小学校に通う頃になると、日本人は叩かれ始め、最悪の人類になってしまう。日本も米英を「鬼畜米英」と呼ぶに至ったのだから、敵軍ならば悪口を言うのも仕方ない。
 しかし韓国は米軍と軍事同盟を結んで、日本と同じ側にいる。その国が「日本に軍事情報を渡さない」という。動機について一言も二言もあるのだろうが、米軍が烈火のごとく怒るのは当然である。誰かが狂ったというならあり得るが、大統領以下、全閣僚が同意したのである。なぜこのような集団発狂のようなことが起こるのか。
 呉善花氏の著書『漢字廃止で韓国に何が起きたか』(PHP)を読むと、日本との併合以来漢字とハングルを同時に学んでいた韓国で1970年頃から、漢字廃止の動きが始まったという。呉氏の言う例だが、ハングル専用世代は「しこうのそんざい」という言葉にぶつかると「存在」は分かるがハングルで書いた「至高」は普段使わないから分からない。読むときは分からない漢字はもちろん、分からないハングルも飛ばして読む。韓国語の70%が漢字語だがこれを飛ばして読んで本の趣旨が分かるのか。
 ソウル大学図書館には63万冊の蔵書があるという。1970年の調査では全学生のうち図書館を利用する者が2%で、そのうち蔵書を利用する者が2%だった。
 同大学の宋基中教授は(同書)こう語っている。「16年間もの間、勉強をしてきて、自分の国の言葉で書かれた新聞すらまともに読めない者など、人類の歴史上どこにも探すことができない。現在の地球のどこにもいない。わが民族文化は漢字と漢字語を基盤に造られて発展してきた。漢字を廃止することによって、数千年間続いてきた固有文化は、その伝統が断絶するだろう」
 日本はシナから伝わった漢字を音と訓に読み分け、ひらがなで助詞を作った。外国語はカタカナで表現した。ほぼ完璧な文字体系で、表現できない哲学や心理描写はない。
 中国語には助詞と時制(テンス)がないから文章に正確さが欠ける。ちなみに中国語で使われている「主義」「哲学」といった単語の70~80%は日本語である。清が潰れた時、1万数千人の中国人が日本に留学し、日本語で西洋文化を学習したのである。
 韓国の単純化したハングル教育によって、韓国人から心情の豊かさが薄れ、抽象的概念が全く語られなくなった。これでは民族がトンがる一方だ。それを自覚して貰いたい。
(令和元年9月4日付静岡新聞『論壇』より転載)